2.KTCにおける終末期医療について

1.終末期医療とは

ここでいう「終末期医療」とは、患者の病状が着実に進み、その先に死があることが明らかである場合、患者のリビング・ウィルや生活の質(QOL)を重視し、精神的あるいは肉体的な苦痛の緩和をおこなう医療と考えています。基本的には、患者の意思に沿った治療を行うわけですが、時としてそれが患者にとって死期を早める場合もあります。また、患者に意識がない場合は、家族にも患者本人の意思の「推定」を容認し、家族相互の意思の統一がなされている場合には、それに従って「患者に最善の医療」を行うものと考えています。いずれにしても終末期医療には、いわゆる安楽死の問題や倫理的な問題もあり、「医療の放棄」「治療の差し控え」「みなし末期」といった言葉にも表わされているように、ともすると「保護責任者遺棄致死罪」(刑法219条)が適応されないとも限りません。

一般的には、
1)救急医療などが関与する急性期疾患により予後が望めない状態
2)がんなどによる亜急性で予後が6カ月以内
3)高齢者などの慢性疾患で「病状が不可逆的かつ進行性で、その時代に可能な最善の治療により病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり、近い将来の死が不可避となった状態」(日本老年医学会)
が考えられますが、慢性疾患の場合には病状の進行の予測が困難な場合があるので具体的な期日には言及しません。これ以外にも、高齢者では明らかな疾患などがなく、次第に経口摂取しなくなり、眠るようになくなる「自然死」あるいは「老衰」といった状態も考える必要があるでしょう。

2.当院における終末期在宅医療

 まず、それぞれの症例に対する病態(状態)の把握が重要と考えています。当院ではインフォームドコンセントを重視し、本人やご家族に十分な説明を行うことを第一に考えています。これは、患者が尊厳死をむかえるにあたって、治療を受ける意思(リビング・ウイル)を確認するためにも重要と考えています。具体的な対応は症状緩和を中心とした「ケア」が中心になりますが、訪問看護、介護、薬剤、マッサージなどの職種連携によるチーム医療が基本です。家族への説明では、いろいろなことが起きる可能性を話し、「いつでも連絡してもらって構わない」ことで不安を取り除くようにすることが在宅医療を行う上で重要です。患者やご家族の意思は動揺することがあり、場合によっては医療機関への紹介にも対応する柔軟性も必要でしょう。 

皮下点滴

図1 壁用フックを利用した皮下点滴

 治療の実際では、疼痛や身体的・精神的な苦痛を取り除く必要があります。これは往々にして個別的な治療になりがちですが、ガイドライン(下記参照)に沿った治療を心がけるようにしています。もっともガイドラインが治療のすべてを決めるものではありませんが、これは終末期医療としての質の格差の是正にもつながると考えています。実際では延命処置、とくに輸液や輸血、鎮静剤の適応をどうするかの判断が難しい場合があります。当院では、必要な場合は皮下輸液皮下持続注入を中心とした治療を行っています。

皮下輸液は、腹部皮下に22G針を留置し、250 mL~500 mLの生理食塩水ないしは1号輸液を週に2~3回行ないます。3号輸液でもとくに問題なく行なえます。一時的に皮下が膨隆しますが筋層に入らなければ疼痛もなく、翌日には消失します。壁にフックをとりつけるなどして、ご家庭でも簡単に輸液ができます(図1)。
持続皮下注射は麻薬やオクトレオチド、抗コリン剤の注入をリニアフューザーR
(テルモ)を用いて行ないます(図2)。流量を調節することで、2~3日に一回の交換で疼痛管理が可能です。


図2 皮下持続注射

<参考> 終末期医療のガイドライン
1. がん性疼痛緩和のガイドライン 1986, WHO 3段階除痛ラダー

2. 苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン 2005, 日本緩和医療学会 
3. 終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン(第1版)2006, 日本緩和医療学会
4. 終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン2007, 厚生労働省
5. 終末期医療のあり方についてー亜急性型の終末期について(対外報告)
–2008, 日本学術会議 臨床医学委員会終末期医療分科会

3.終末期医療の疾患

2011年12月現在で54例に終末期医療の導入を行いました。疾患としてはがんや悪性疾患が最も多く78%を占め、以下 老衰(自然死)が13% 、慢性疾患(肝硬変、肺気腫、心不全、認知症)が9%でした(図3)。

図3

図3 終末期医療の疾患

4.在宅導入からの予後

生存曲線を良性疾患と悪性疾患で比較すると、生存期間中央値(MST)はそれぞれ103日と38日でした(図4)。1年近い長期生存の患者は、良性疾患(慢性疾患)では入退院を繰り返し在宅に復帰した患者であり、悪性疾患では比較的早期から在宅が導入された患者でした。

図4

図4 終末期在宅医療患者の予後

5.まとめ

1.終末期在宅医療の疾患としてはがんが最も多く、老衰や慢性疾患も含まれました。
2.慢性疾患のMSTは103日ですが、入退院により予後が延長すると考えられました。
3.悪性疾患のMSTは38日ですが、原疾患や導入時期の差が予後に影響すると考えられました。
4.慢性疾患と悪性疾患の予後には有意差を認めました(p<0.05)。


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