3.高速インターネットを用いた遠隔在宅医療

1.遠隔医療システムについて

広大な国土を有する米国やカナダでは、遠隔地においても国民によりよい医療を提供するために通信システム(電話回線やインターネットさらには衛星通信)による医療を提供しています。これには、ビデオ会議システムのようにカメラやモニターを通じて医師が遠隔地の患者をリアルタイムで診察するもの、データ蓄積転送システムとして撮影画像や診察情報を遠隔にいる医師に転送するもの、さらには遠隔在宅医療システムとして慢性疾患や高齢者の自宅に生体データ測定機器やデータ送信システムを配置し、患者が遠隔の専門医や看護師にそのデータを送信するものなどがあります。 

日本でも、在宅医療に遠隔医療を導入する試みがなされています。ここでは、東海大学で行った高速インターネットを用いた取り組みについて述べたいと思います。

2.遠隔在宅医療

在宅医療における遠隔医療の適応や意義については議論の余地がありますが、実際に行うに際しては以下の点が重要と考えています。

1) 双方向性
2) なるべく既存の機器・ソフトが使用できる
3) コストが安価
4) 設定が比較的容易
5) セキュリテイーの問題がない
6) 高速インターネット回線を使用

現在利用できる高速インターネットの通信速度を比較してみると、商業ネットでは、NTTが一般用100 Mbps(メガビット毎秒)、専用回線で40 Gbps(ギガビット毎秒)までのサービスを提供しています。KDDIは1 Gbpsを提供し、Qualcommなどの通信会社の参入が予定されています。

一方、学術ネットとしては日本のSINET3は10~40 Gbps、米国のInternet2は100 Gbpsの速度です。また、最近日本で打ち上げられた通信衛星の「きずな」(WINDS)により、1.2 Gbpsの通信環境が実現すると言われています。

遠隔在宅医療における双方向通信では、受信するものとしては患者の様子の映像、バイタルサイン情報などがあり、送信するものとしては医師の映像、指示や処方などの医療行為があげられます。

3.DVTS (Digital Video Transport System)

図1 DVTSシステム

DVTSは画像を圧縮することなくそのまま転送する通信方法で、フリーのソフトウェアを用いることができます。通信容量として送受信にそれぞれ30 Mbpsが必要ですが、必要な機材はパソコン、ビデオカメラ、液晶モニター、マイクロフォン、ミキサーなどで既存のものが使えます。また、セキュリテイーとしてはVPNルーターを用います(図1)。したがって高速インターネットが必要ですが、何といってもコストがかからないのが魅力的です。


4.高速インターネット回線を用いた通信実験

遠隔医療の基礎的実験として東海大学にて以下の双方向通信実験を行いました。

図2 平常の送受信状況

東海大学キャンパス内の通信回線はNTT e-VLAN (100 Mbps)であり、神奈川県相模原市にある宇宙科学研究本部(JAXA)を中継点として10 GbpsのSINET3に接続しています。しかし湘南をはじめとしてキャンパス全体で100 Mbpsの容量しかないので、平日日中の受信回線量は100 Mbpsのピークに達しています(図2)。


そこで、学生のいない夏休みを実験日に設定しました(2008/9/11)。参加施設は上海交通大学校第一人民病院(中国)、九州大学(福岡)、東海大学(伊勢原)の3か所で、これを多次元双方向で結び、腹腔鏡下胃切除術に関するカンファレンスを行いました。東海大学からは遠隔講義が行われ、学生にも参加してもらいました(図3,4)。

図3 遠隔講義(東海大学)

図4 多次元中継


図5 ライブ手術映像

九州大学からはライブ手術中継があり、手術に関する質問や意見が出されました。それに対して術者やモジユレーターが回答しました(図5)。


図6 通信実験時の送受信状況

このときの通信状態は、双方向で30 Mbpsあまりの回線を使用しましたが、全体で100 Mbpsに収まり、パケットロス(画像や音声データの途切れ)なくリアルタイム映像や音声の転送が可能でした(図6)。


図7 4次元中継

次に、ヨーロッパとの通信実験を行いました(2009/5/15)。この場合は日本の夜間に回線を使用するので通信容量の問題はありませんでした。参加施設はローマ大学(イタリア)、九州大学(福岡)、藤田保健衛生大学(豊明)、東海大学(東京)で、第20回ローマ消化器外科学会にオンライン参加という形をとりました(図7)。


図8 ローマ会場の模様

四次元双方向通信で、日本の3大学より遠隔講義が行われ、ローマの会場に配信されました(図8)。
このように、遠隔医療が進歩すると、実際に外国を旅する楽しみがなくなることがわかりました。


5.まとめ

1) 高速インターネットとDVTSシステムを用いることでリアルタイム映像や音声の送受信が100 Mbpsの通信環境でも可能でした。
2) この方法は、電子診療あるいは電子指導などに応用が可能であり、遠隔在宅医療の可能性が示唆されました。


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