5.音声解析ソフトを用いた嚥下機能の評価

1.誤嚥性肺炎について

 当院における在宅患者の、入院による診療中断の原因で最も多かったのが誤嚥性肺炎でした。市中肺炎、院内肺炎患者の70%近くは誤嚥が関連するとのデータもあり、誤嚥を予防することは高齢者の死亡原因の第1位を占める肺炎(誤嚥性肺炎)の予防につながると考えられます。しかし、こういった誤嚥性肺炎の原因では夜間の「不顕性誤嚥」が問題となることが指摘されています。すなわち、寝ている間に唾液や「胃・食道逆流」による誤嚥をきたし、重症な肺炎になってはじめて気が付くという「見えない誤嚥」が問題なのです。したがって、覚醒時の嚥下訓練のみならず口腔内ケア、咳嗽反射をおこさせるといった予防策が重要と考えられています。

2.嚥下とは?

 嚥下には1)舌の運動により食べ物を口腔から咽頭(のど)に送る口腔期、2)嚥下反射により食べ物を食道に送る咽頭期、3)食道の蠕動(ぜんどう)運動により胃まで運ぶ食道期があり、いろいろな器官が関与した複雑な動きをしています。嚥下では咽頭期が最も重要と考えられますが、この瞬間には喉頭蓋が気道を塞ぎ、呼吸は吸気の状態で止まっています。したがって、嚥下の後では呼吸は呼気で再開するのが正常とされます。誤嚥が起こると咳嗽反射によりむせを起こし、呼気の際に水分を排泄する音(湿性咳嗽音)を聴取します。

3.当院における嚥下機能の検査法

 従来の嚥下検査法にはX線の透視を使用する嚥下造影や、喉頭ファイバーなどの内視鏡を使用するものがあります。しかし、そのような検査を受けるために在宅患者を病院まで連れていくことは現実には困難です。また、これらの検査では「不顕性誤嚥」を予測することは困難です。当院では、在宅で簡便に施行でき、客観的な評価が可能である以下のシステムを用いて嚥下機能の評価を行っています。

咽喉マイク

図1 咽喉マイクロフォン

方法

咽喉マイクロフォン(南豆無線電機SH-12ik)を頸部に装着し(図1)、嚥下音と呼吸音をMP3 レコーダー(Olympus Voice Trek V-75)に録音し、そのデータをPCの音声解析ソフト(Raven Lite v1.0)に読み込み解析します。


正常嚥下

図2 正常な嚥下



症例1

水の嚥下と空嚥下を繰り返し行ったものです。高い振幅で短時間の嚥下運動が捉えられています。水嚥下の後に約0.4秒の間隔をあけて呼気音が録音されています。下はスペクトログラフです(図2)。

誤嚥

図3 嚥下困難患者



症例2

脳出血後で、嚥下困難の患者の結果です。口に食べ物(とろみ食)を入れてから嚥下が開始するまでに時間を要しており、咳嗽反射によるむせを起こしていますが、直後には呼気音が観察されます。その後スペクトログラフ上、何度か呼吸音を認めますが、2度目の嚥下はスムーズです(図3)。

現在症例を集めて解析をしており、「不顕性誤嚥」の抽出が可能かどうか検討を加えております。


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