9.在宅患者のADL評価

1.ADLの評価法

ADLとはActivities of Daily Living(日常生活動作)のことで、文字通り日常の生活の自立のために必要な身体能力やその実行頻度をあらわすものです。これには呼吸や循環といった生命機能、四肢の筋力などの身体機能に加えて家庭内や社会生活において必要となる情動、知的、認知機能などの高次脳機能などが含まれます。さて、在宅患者ではどのようなADLの評価方法を用いたらよいのでしょうか?

ADLの評価方法として有名なものにBarthel Indexというものがあります。これは古くから用いられている方法で、現在では改訂版もありますが身の回りの動作や移動動作に重点をおいて10~15項目について自立(I,II)、介助(III,IV)という視点から点数をつけるものです。次に、FIM (Functional Independence Measure)、すなわち機能的自立度評価法といって1983年にGrangerらによって開発された評価方法があります。これは、介護負担度の評価が可能であり、ADLの評価では信頼性や妥当性があることからリハビリ領域でよく用いられています。FIMではADLを運動項目4項目と認知項目2項目とに分け、完全介助から自立までを1~7の点数で評価をします。ADLの評価で重要なのは、客観性と簡便性であることはもちろんですが、評価を時系列で捉える必要、すなわちADLの推移(変化)をみることも重要と考えています。

2.在宅患者のADL調査

当院では限られた診察時間内で客観的かつ簡便にADLを評価する方法として、厚生労働省による包括医療導入の際のDPC (Diagnosis Procedure Combination) 調査に用いられたADLスコアを用いています(図1)。これは、食事、移乗(ベッド、車椅子、椅子など)、整容、トイレ動作、入浴、平地歩行、階段、更衣、排便管理、排尿管理の10項目につき自立の程度によりスコアをつけるもので、完全に自立していると20点(100点)満点になります。

図1

図1ADLのスコア表

図2

図2ADLスコアの分布

そこで、当院の在宅患者60名でこれを検討したところ、スコアの平均は9.5±7.6点(20点満点、以下同様)であり、その分布をみると5以下と15以上に2つのピークがありました(図2)。ADLスコアが20点、すなわちほぼ自立している患者は8名(13%)である一方、ほぼ寝たきりである0点は11名(18%)でした。10以下をADLの低下と考えると、32名(54%)の患者がこれに該当しました。ちなみにDPC導入病院おけるADL10以下の患者は3%程度であり、これらの患者に入院治療が必要になった時の問題点を表していると言えるでしょう。また、それぞれの項目の平均スコアは、食事(1.4)、移乗(1.8)、整容(0.52)、トイレ操作(1.1)、入浴(0.26)、平地歩行(1.2)、階段(0.52)、更衣(0.91)、排便管理(1.1)、排尿管理(1.1)でした。これを百分率のレーダーチャートで示すと、食事の自立が比較的良く、入浴や階段昇降の自立が悪いことがわかります(図3)。このように在宅患者の食事摂取は比較的自立しており、入浴の介助や垂直移動のない生活空間が必要であると考えられました。今後は個々の症例での推移を観察する必要もあると考えています。

図3

図3評価項目別スコア

次に、ADLデータの主成分分析を行いました。その結果、第2主成分までの累積寄与率は85.5%でした。この2成分を用いて各症例の主成分得点散布図を作成しこれを4つのカラムに分けてみると、左上(a)にはスコアが17点以上かつ“入浴”や“階段”の昇降のスコアが高いものが含まれました。逆に右上(b)にはスコアが4点以下のものが含まれています。なお、0点と20点のところは数字が重なっています(図4)。

図4

図4主成分得点の散布図

さらに、このデータをクラスター分析(k平均法)すると3群に分けることができます(図5)。すなわち、得点の高いa群、逆に低いb群、その他のc群です。各データの分布状況は、主成分得点分布(図4)に類似していることがわかります。

図5

図5 クラスター分析

次に、ADLデータの因子分析(因子数=3、回帰法)を行いました。その結果、独自因子として整容(0.41)と食事(0.28)が抽出されました。すなわちこれらの因子は共通因子に乏しいことが示唆されました。第2因子の負荷量では、入浴(0.68)、階段(0.67)が高く、第3因子の負荷量では排便(0.30)、排尿(0.30)が高く移乗(-0.33)が低い結果でした。第3因子の累積寄与率は85.8%であり、カイ2乗検定でも十分な因子数と考えられました(p=0.276)。因子負荷量(第2と第3因子)と得点のグラフでは、階段と入浴、食事、移乗、平地歩行、排便・排尿、整容が分離されました(図6)。

図6

図6 因子負荷量と因子得点の散布図

各症例のADLスコアを視覚的に捉えるために、「チャーノフの顔グラフ」を用いました(http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/R/face.html)。9症例につき、それぞれ10個の変数を用いて(8個は0とした)顔を描きました(図7)。1は20点、7,8は0点の症例です。スコアが小さいと顔全体や目、鼻、口が小さくなります。また、3と4のように同じ19点でも項目の点数により表情が異なってきます。同一症例の変化を見るのにも有用な(?)方法かと思います。

図7

図7 ADLの顔グラフ


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