10.在宅患者のQOL評価

1.QOLとは?

QOLとは”Quality of Life”の略であり“生活の質”と訳されることが多いわけですが、この”Life”には様々な意味が包括されており、その解釈も多様になります。すなわちその意味するところは個人の「生命」や「生存」といったことから「生活」や「暮らし」、「人生」や「生涯」、さらには「生き方」や「生き様」までを含むことがあるわけです。WHO(世界保健機構)によるQOLの定義では、「一個人が生活する文化や価値観のなかで、目標や期待、基準、関心に関連した自分自身の人生の状況に対する認識」とあります。一般的にはQOLにより想起される概念は、暮らしの中での満足感、幸福感、生活の豊かさ、生きがい、健康などを指すことが多いでしょう。また、主観的要素(満足感)から環境的要素(生活環境など)まで範囲を広げて評価する場合もあり、「生きがい」や「人生観」ということになると哲学的な領域にまで踏み込むことになります。このようにQOL評価ではどこまでを含めるかを明確にした上で評価を行う必要があります。

QOL研究の源流は医学領域にあります。とくに癌患者などの終末期患者の医療に関して、キュアからケアへの医療モデルの転換での研究がなされました。医学領域で開発されたQOL評価尺度は「健康関連QOL」として扱われており、包括的なものではSIP, SF-36, PGI, EQ-5Dなど、疾患特異的なものとしてはEORTC, FACT-Gなどがあります。

図1

図1 EORTCを用いた胃癌術後QOLの比較

われわれもEORTCを用いた胃癌手術後のQOLの推移を腹腔鏡下胃切除(LADG)と開腹胃切除(DG)との比較で検討しました。その結果、腹腔鏡下手術におけるQOLの回復(LADG, 青線)は術後1~2ヶ月で見られるのに対し、開腹胃切除(DG, ピンク線)ではその時期には低下がみられ、その後回復するまでには6ヶ月から1年を要しています。したがって、QOLの回復という点からも腹腔鏡下手術の有用性が示唆されました(図1

2.高齢者のQOLの考え方

高齢者のQOLの概念としては、1983年にLawtonらが提唱したモデルがあります。すなわち、健康や運動などの行動能力、住居や仕事などの環境といった客観的な評価と、幸福、楽観主義などの心理的幸福感、家族や友人、活動や住居に対する生活の質といった主観的な評価が可能なモデルです。

一方で、医学領域とは別に老年学(加齢学)的なアプローチもなされてきました。すなわち、「いかに満足のできる幸福な年齢を重ねるか」という“サクセスフル・エイジング”の検討です。これらの検討は、加齢変化に対して高齢者がいかに適応していくかの研究や、理想的な高齢期の生き方に関する研究へと発展しました。また同時に、生活の満足度、人生の満足度を指標にしたQOLの尺度も開発されてきました。その中にはNeugartenLSIA (Life Satisfaction Index A)LawtonPGC (Philadelphia Geriatric Center)モーラースケール、日本の古谷野によるLSIK (Life Satisfaction Index K)などがあります。

3.在宅患者のQOL評価

そこで、当院における在宅療養患者のうち、質問に回答できた13名についてPGCモーラースケールによるQOL評価を行いました。これは、17項目の質問事項に答える形式で、回答は2~3択であり、その回答によりスコアが付加されるものです。肯定的な回答には1点が与えられるので、もっとも高い得点は17点になります。これは「主観的な幸福感」を表しているとされています。また、このスケールはこれを構成する3つの下位尺度、すなわち「a 老いに対する態度」「b 心理的な動揺」「c 孤独感・不満足」に分けることができます。今回の検討では、関連因子として性別、年齢、疾患数、症候数、要介護度、生活環境、社会資源の利用、健康保険の種類、活動度としてADLスコア、栄養状態の指標としてMNAスコアの10変数を取り上げました。

1.    在宅患者のPGCスコア
今回の検討の結果、スコアの平均値は11.38点で、標準偏差は3.57でした。また、男女間に有意な差はありませんでした。これは、1989年に東京都老人総合研究所の前田らが一般老人を対象として全国規模で行った報告の平均値11.23ときわめて近い値でした。

2.    対応分析
次に3つの下位尺度を用いた対応分析を行いました。症例ごとのカテゴリーデータの特徴をみると、例えば症例9は、「a老いに対する態度」のスコアが高いことがわかります。また、症例2は「b心理的な動揺」のみ2点の症例です(図2)。

図2

図2 対応分析

3.    クラスター分析
次に3つの下位尺度をもとにクラスター分析を行いました。その結果、患者のQOLは3つのグループにわかれることがわかりました。例えば、1はaが高く、bとcが中間の群、2はaとcが低い群、3はbとcがともに高い群になります(図3)。

図3

図3 クラスター分析

4.    主成分分析
PGCスコアを含め11変数による主成分分析をおこないました。まず、PGCと同じ向きのベクトルがADLであることがわかります。また、疾患(Dis)が多いほど要介護度(CD)が高く、社会資源の利用(SC)をしていることがわかります。年齢(Age)と保険の種類(HI)のベクトルも同じ方向ですが、これは高齢な方が1割負担であることと関連があるものと考えられました(図4)。(Sex:性別、Sym:症候群、LE:生活環境)

図4

図4 主成分分析

5.    分散分析
「主観的な幸福感」に影響を及ぼす因子を解析するために、先の10変数を用いて一元配置法による分散分析を行いました。その結果、ADLにおいてのみ有意な差が見られました(自由度2、F値=8.51、p<0.01)。これまでの高齢者を対象とした研究では、健康状態(自己申告ですが)、対人関係(家族関係や友人)、経済状態(生活が苦しいなど)などがPGCスケールに関連があると報告されています。

6.    数量化I類解析
次に生活環境、社会資源の利用、保険の種類、性別にダミー変数を用いた数量化I類解析(AICステップワイズ法)を行いました(表1)。この結果から有意(p<0.01)かつ寄与度が高い標準化偏回帰係数を示したのはADLでした。なお分析結果の決定係数、F値、P値はそれぞれ0.9899, 19.58, 0.05でした。

表1

表1 数量化I類解析

7.    QOLスコアの顔グラフ
さらに、PGCスコアについても「チャーノフの顔グラフ」による評価を行いました(http://aoki2.si.gumna-u.ac.jp/R/face.html)。変数は17個を用いて9例の作図を行いました。顔の下の数字はスコアを示しています。スコアが低いと小さな顔になり、同じスコアでも表情が異なります(11点の3例)(図5)。

図5

図5 QOLの顔グラフ

4.今後の展望

今回の検討では、患者のADLが「主観的な幸福感」からみたQOLに寄与している可能性が示唆されました。したがって、在宅医療を受ける患者のADLを高めることはQOLの向上につながると考えられます。現在の高齢者の質問紙法によるQOLの評価では、まず第一に質問に答えられることが評価の前提になります。そのため、今回の検討では多くの患者からの情報を得ることができませんでした。とくに、認知症患者のQOL評価をおこなう尺度などを開発する必要があると考えられました。また、QOLの評価では時間の経過による変化を見ることも重要であり、在宅導入の前後での変化なども興味のあるところです。さらに、高齢者の介護を行っているご家族のQOLを評価することも重要であり、現在この課題に取り組んでいます。


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