11.認知症患者の在宅ケア

1.はじめに

高齢者人口の増加に伴い、認知症の患者数は増加の一途を辿っていると言われています。最近のWHOの統計(2012年4月)によれば、認知症患者は全世界で3,560万人と推計されており、これは総人口70億人の0.5%に相当し、20年後には倍になるといわれています。一方、本邦の65歳以上の高齢者における認知症の有病率は3.8~11.0%とされており、これを2010年度の人口統計における65歳以上の人口2千906万1千人(総人口の22.8%)をもとに計算すると実に110万人から300万人以上の患者数が推定されます。このことからも、この疾患に対する理解と早期の治療、さらには地域でのケアシステムの確立が急務であることは言うまでもありません。

2.当院の在宅ケアの現状

当院における在宅導入疾患で認知症は2番目に多く、18%を占めています。同時に、高齢者は複数の疾患を有しており、症状(老年症候群)としても「物忘れ」の頻度が高いことはすでに述べました。そこで、当院の在宅医療における認知症を有する患者74名の療養状況について検討しました。

1) 年齢分布
年齢は60歳代から100歳以上と広範囲に及びますが、80歳代が最も多く、年齢の中央値は84.5歳でした(図1)。

図1

図1 認知症患者の年齢分布

2) 病型

次に病型をみるとアルツハイマー病が最も多く72%を占め、血管型が22%、レビー小体型4%、アルコール誘発性1%の順でした。ここでいう、血管型とは、脳卒中を契機に認知症になった患者としました(図2)。

図2

図2 病型

3) 併存疾患

当院で在宅療養を受けている患者は平均4.5個の疾患を有することがこれまでの検討から明らかになっています。今回の検討では、なんらかの併存疾患を有する患者は81%でした。それらは、高血圧症(49%)、脳血管障害(19%)、心血管疾患(13%)などで、糖尿病を有する患者は11%でした。高血圧、糖尿病などの疾患は、認知症の血管性危険因子としても知られています。したがって、治療に当たっては認知症のみならずこれらの併存疾患への対応も必要と考えられました(図3)。

図3

図3 併存疾患

4) 病悩期間

在宅開始までの病悩期間を検討すると、発症(診断)から10年以上経過されている方も見られましたが、中央値は24ヶ月であり、比較的短い経過で通院困難となり、在宅療養が開始されていることがわかりました。(図4)。

図4

図4 病悩期間

5) 全般的重症度

重症度スコアとしてCDR (Clinical Dementia Ratinig)を用いて検討したところ、中等度である2が最も多く、重度である3も15%以上でした。このように、在宅療養を受けている認知症の患者は中等度から重度例が多いという傾向がありました。(図5)。 

図5

図5 全般的重症度スコアの分布

6) 内服薬の有無

内服治療を受けている患者は38例(53%)でした。これは副作用による中止例や重症度スコアが比較的高い患者が多いためと考えられました。現在は、内服薬の種類が増え、従来効果が少なかった患者にも治療の選択肢が増えてきました。ただし、服薬で注意する点は、1)少量投与にする、2)多剤併用をさける、3)服薬のコンプライアンスを確認する、4)副作用のチェックをする、5)薬効の評価をするといったことが重要です。また、抗精神病薬を安易に使用することは慎むべきでしょう。それは、過鎮静からADLの低下をきたし転倒したり、嚥下障害から肺炎といった経過をたどる可能性があるためです。このように在宅患者では内服治療だけでなく、ケアを考えていく必要があります(図6)。

図6

図6 内服薬の有無

7) 生活環境

患者の生活環境は居宅53%、施設47%でした。居宅を独居、老老介護、配偶者以外の家族と同居に分けて検討すると、それぞれ9%, 15%, 29%でした。このことからも介護上問題となる独居や老老介護の患者が1/4以上におよぶ現状が明らかになりました(図7)。

図7

図7 生活環境

8) 社会資源の利用

社会資源の利用では、訪問介護、看護、デイケア、ショートステイ、グループホーム、お泊まりデイサービスなどを利用していることが分かりました(図8)。これは、在宅療養を継続していく上で、ケアをする家族の負担を軽減するサービスとしても重要です。

図8

図8 社会資源の利用

9) 転帰

居宅での診療が続けられた患者は約半数になり、入院は全体の18%にみられました。入院原因でもっとも多かったのは誤嚥性肺炎で46%を占め、以下尿路感染(15%)、胃がん(15%)、褥瘡(8%)、胆道感染(8%)、暴力(8%)でした(図9)。このように、認知症を有する患者が別の疾患にかかった場合、その入院先をどうするかが問題になります。また、胃がんのような悪性疾患が隠れている可能性もあるので見逃しのないようにしなければなりません。ちなみに、この胃がんの患者さんは2例とも手術することができました。さらに、暴力行為など、ケアをしている方が危険な状況になるような場合の緊急対応をどのようにとっていくかや、抗精神病薬などが処方された場合のフォローアップのしかたも課題でしょう。

図9

図9 入院理由

10) 認知症患者の予後
認知症の患者さんはどのくらい生きられるのでしょうか?Corey-Bloomらの報告(2007)のように2年〜16年とかなり幅がある報告もありますが、予後は対象患者の年齢とか重症度により影響をうける可能性があります。また、最初の症状が出たときからなのか、診断がついたときから考えるのかでも予後は変わってくるでしょう。Larsonらの報告(2004)では診断から4.2~5.7年、日本の大規模な調査の北村立らの報告(2009)では診断から5.8年といわれており、診断されてからの予後ということになると4年から6年くらいと考えるのが妥当でしょう。また、5年生存率は長谷川らの報告によれば13.7%であり、数字だけ見れば、胃がんのステージ4に相当するわけで、けっして予後がよいわけではありません。そこで、当院のアルツハイマー病の患者の予後をカプラン・メイヤー法で検討しました。その結果、1年生存率は74.6%でした(図10)。
 

図10

図10 アルツハイマー病の生存率曲線

3.これからの地域連携

国の政策では全国に認知症疾患医療センターを配置するとありますが(「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」厚生労働省、2008年)、神奈川県では東海大学医学部付属病院久里浜医療センターの2箇所しかありません。そこには認知症専門医がいるわけですが、すべての患者を診断、治療するのは困難です。地域では、例えば川崎市高津区での65歳以上高齢者の認知症患者は3千人以上と推定されますが、認知症取り扱い病院の登録件数は2件、診療所は15件のみです。「かかりつけ医」「サポーター医」の育成も行われていますが、うまく機能していないのが現状です。また、認知症のケアでは医療連携のみならず介護連携が重要ですが、一部の地域を除いて「地域包括支援センター」などとの連携もうまくいっていないのが現状でしょう。また、ご家族の負担を減らす意味でも、普段のケアをサポートする認知症専門の介護スタッフ、ケアマネジャーなども育成しなくてはなりません。さらに、地域資源や施設を有効利用し、他の疾患に対する入院治療もスムーズにできるような体制作りが急務と思われます(図11)。

図11

図11 これからの地域連携


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