12.人生の最後をどこで迎えますか?

1.はじめに

最近、「終活」なる言葉が使われるようになっています。もともとは「人生の終わりのための活動」の略で、生前に自分の人生を見つめなおして文章にしたためたり、「葬儀」の段取り、埋葬される「墓」の準備などをすることを指すようですが、人生の最後までの時間をどのような場所で過ごすのかということも関心を集めており、「終末期医療」、「老後の住まいと介護」といったような雑誌の特集が組まれるようになっています。一方で、高齢化社会を迎えるにあたって、真剣に社会保障制度の整備を進めなければならない時期にもかかわらず、国の政策方針は相変わらす方向が定まらぬまま、場当たり的なものに終始しています。

2.在宅での死亡率と医療費

厚生労働省の人口動態統計によれば、本邦の在宅での死亡率は1975年を境に減少に転じ、現在では15%ほどであり、多くは医療機関で死亡しているのが現状です。この背景には医療水準の向上や、救急医療の普及にともなう往診の減少、家族構成の変化による在宅での療養の困難化、家庭内で「死」を迎える経験の減少、などがあげられるでしょう。

平成19年度の厚生労働白書をもとに、在宅での死亡率を全国の都道府県別に見ると、最も多いのが長野県の21%で、最も低い北海道の9.6%との間には倍近い差があります。ちなみに神奈川県は14.4%で、全国平均の15.4%より若干低い値です(図1)。地域による医療への期待度や「死」の受け止め方に差があることも推察されます。

図1

図1 都道府県別在宅死亡率

次にこの死亡率と医療費との相関を見てみると、在宅死亡率と一人あたりの老人医療費(多くは入院費)には負の相関があることが分かります(r=-0.563)(図2)。すなわち、在宅死亡率が低い都道府県ほど高齢者に対する入院治療が行われていることが示唆されます。

図2

図2 在宅死亡率と老人医療費との相関

今後の高齢化社会においては、入院以外の方法で終末期を迎えることを考えないと医療費が膨らむばかりで財政的に破たんすることは容易に想像できます。しかし、ここには「高齢者に対する治療をすべきか」、あるいは「しなくてもよいのか」の線を引かなければならないという問題が存在します。医療費の削減を優先するか人命の尊重(救命)かという議論になるわけです。

3.どこで最期を迎えるか

2010年4月現在での川崎市の総人口1,404,532人のうち、65歳以上の高齢者人口は231,856人(総人口の16.51%)で、そのうち要介護認定者数は27,505人です(2008年度末では34,795人)。平成16年度に行われた川崎市高齢者実態調査によれば、65歳以上の要介護者のうち、在宅での療養を希望される方は72.5%と高い数字を示しています。しかし、ご家族の希望もあり、入院や施設に入所されるケースが多いのが現状です。

入院病床に関して、慢性疾患を有する高齢者が利用する介護型療養病床の取り扱いをめぐって議論がありました。当初、厚生労働省は2011年(今年)でこれを撤廃し、介護療養型老人保健施設などへ移行するとしていましたが整備が進まず、つい先ごろ、2017年まで期間が延長されました。川崎市の高齢者福祉施設(表1)のうち、医療や介護の依存度のある高齢者に対しては、特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)などがありますが、いずれも定員が2,000名から2,500名ほどであり、先ほど示した要介護認定者数からすると十分な数とは言えません。実際、特養では5,700人以上の方が入所の順番待ちの状態です(昨年末現在)。このため、川崎市では特養の増設計画が進行中です。

表1

表1 川崎市の高齢者福祉施設

近年、介護付き有料老人ホームの建設ラッシュが続いていますが、高額な入居費用や月額の家賃がかかるために、入居率が低迷しているところもあります。一方で、高齢者専用賃貸住宅(高専賃)やお泊りデイサービスといった比較的費用の安い居住空間も提供されるようになってきました。いずれにしても終末期医療を行うためには居住費のほかに介護費用、医療費(上限あり)などが必要になります。費用負担という観点からすれば、在宅療養が一番コストのかからない方法であり、社会資源の利用とご家族の協力があれば看取りまでの対応が可能です(表2)

表2

表2 終末期医療を受ける際の自己負担金の比較


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