14.独居患者の在宅療養

1.無縁社会

無縁社会」という造語がマスコミを賑わせています。これは、2010年のNHKの報道番組に端を発したもので、近年の日本社会における少子高齢化、核家族化や近所付き合いの減少、結婚しない若者の増加、さらには景気低迷による失業率の増大などがあいまって一人暮らし(独居)世帯が増加し、その人たちが社会との接点を失い、孤立化する状態を指します。そして、高齢者の場合は身内もなく、人知れず死を迎える「無縁死」、「孤独死」がその終末像です。

2.独居患者の在宅療養

当院で在宅療養を受けている患者のおよそ18%は一人暮らし(独居)の方です。そこで在宅療養の導入疾患(主病名)を見てみると、認知症あるいは精神疾患を有する方が最も多く36%を占め、以下脊椎圧迫骨折などの整形外科的疾患によるADLの低下した方が18%、心血管系の疾患が14%で、癌の終末期の方も9%に認められました(図1)。このように、独居で在宅療養を受けている患者では、認知症や精神疾患が最も多い現状が明らかになりました。では、在宅療養は実際どのように行われているのでしょうか?

図1

図1独居患者の主疾患(n=22)

3.認知症患者の在宅療養の導入まで

まず、その方(患者)の様子が変だと言う近隣の方からの通報で自治体の職員による調査が行われます。たとえば、「最近姿をみかけない」、「郵便物がたまっている」、「様子がおかしい」などの情報です。実際、川崎市社会福祉協議会地域包括支援センター民生委員の方々がこれにあたります。

たとえばある患者は家の中で倒れているのが発見され、病院に運ばれ入院治療を受けました。退院後、認知症と心臓疾患に対して在宅療養を開始するためにケアマネジャーさんとともに患者宅を訪れたところ、家の中はこのように荒れ果てており、患者は台所に布団を敷いて寝ていました(図2)。この患者の場合、まず生活環境を整備する必要があり、部屋の掃除と宅配弁当の手配、本人の通帳の管理が必要でした。内服薬の管理にはさらに訪問介護の必要があります。このように、独居の認知症患者のケアには、医療のみならずさまざまな社会資源の導入が必要です。症状が落ち着いている方ですと、訪問介護サービスで在宅療養が受けられます。しかし、症状の推移をみて、他の疾患で入院したり、症状が重くなってグループホームなどの施設に入所するタイミングを逸してはなりません。また、在宅の場合は近所の方や所轄警察など地域ぐるみの見守り体制も必要でしょう。

図2

図2独居認知症患者の自宅

4.安否確認の方法

独居の方々の安否の確認はどのようになされているのでしょうか?上記のように自治体の職員による見回りもありますが、どうしても人出がたりません。宅配弁当の配達員や訪問診療もある意味安否確認をしていることになります。これとは別に、企業や社会福祉法人の生活援助員などによる「高齢者見守りサービス」が受けられるようになっています。それには、いくつかの種類があります。

1)複合サービスとして、警備保障会社が提供しているのが監視センターをおいて緊急通報や、非常通報をうけたり、安否確認をおこなったり、実際ガードマンがかけつけ警察、消防、ガス会社への連絡、場合によっては110番、119番通報を代行してくれるものです。あるお宅では、このサービスにより、ボタンを押すと救急車がやってきて搬送される病院まで決まっているというものがありました。ご本人も、「あっという間に病院に連れて行かれる」といっていました。この場合、誤操作が問題となります。

2)センサーをおいて監視をおこなうもので、東京ガスが提供するガス使用量から安否確認をするサービスや、LPガス使用量から同様の確認をするもの、また、センサー監視カメラによるサービスを提供するものがあります。これも、どのような状態が異常なのかという判断が重要になります。生活パターンからその特徴を割り出して判断をしているようです。米国では、360度監視カメラで遠隔地にいる看護師が24時間常駐して在宅患者の見守りをしており、緊急の際には親族に連絡が行くようなサービスを提供している会社がありました。

3)電話オペレーターによる専用回線での定期的な安否確認、あるいはオート電話によるものがあります。これを導入しているお宅では、診察中に「OOさんお元気ですか?」と突然声がしてびっくりすることがあります。電話に出るまでに時間がかかると異常と判断されてしまう可能性があります。

5.癌の終末期のケア

当院の独居患者では、癌の終末期医療も2例経験しました。24時間体制で訪問介護、看護が参入し、在宅酸素療法や疼痛コントロールをおこなうことで決して不可能なものではないと思いますが、寄せ集めの体制では困難なことが多く、うち1例ではご本人の意思確認により入院治療に移行しています。独自の在宅ホスピスケアで実際多数の症例をお持ちの診療所もあるようですが、どの地域でも受けられる支援体制ではないのが現状です。

6.おわりに

無縁社会」の闇は知らぬ間にわれわれの周囲に迫りつつあります。これは、戦後日本がたどった道の行く末であったのでしょうか。プライバシーの尊重のあまり、地域でのコミュニティーが希薄化し、同じマンションでも誰がいるのかわからないことも希ではありません。日本においても高齢化の波が押し寄せ、すでに認知症患者は300万人に達するとも言われています。今後は病院や福祉施設に高齢者の患者を集めるという発想ではなく、お年寄りが一人でいても様々な在宅サービスにより医療のみならず安心した生活が送れるコミュニティー作りが望まれます。


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