21. 在宅医療における入院医療

1. はじめに


在宅医療とは、文字通り居宅で行われる医療であり、居宅には自宅の他に老人ホーム、小規模多機能居宅介護施設、グループホームなどが含まれます。この診療をうける基本的な条件として、入院の必要ないある程度状態の落ち着いた慢性疾患(認知症、心不全、呼吸器疾患など)、がんに限らず終末期医療をご自宅で受けられる方などが中心となりますが、原則として通院が困難、すなわちある程度要介護度が高い方が対象になるかと思います。療養を行う環境は、できればご家族と同居が望ましいのですが、家族構成の変化の結果、当院の場合独居、老老家庭が約4割を占めるという現状が有ります。かといって、あまりご家族のケアだけに頼りすぎるとかえってご家族のQOLが損なわれます。すなわち、社会資源を利用した介護サービスが必要な方が多いのです。このように介護の中で医療を行わなければならないというのが在宅医療の一番の特徴ですが、医療としてどこまでを提供すればよいのでしょうか?また、在宅医療の評価基準は、現在のところ在宅での看取り率や往診件数などで評価されていますが、そこには「医療の質」を評価する姿勢も必要であり、診療によるアウトカム(例えばQOLの向上、ライフサイクルまでを考慮したコストの削減など)までを含めた評価が必要と思います。

2. 在支診のスタイル


在宅療養支援診療所(在支診)のスタイルは、「ハイテク全科型」と「QOL重視型」にわけることができます。前者は、人工呼吸器、血液透析などのさまざまな医療機器による診療にも対応し、診療科も総合病院のように全科をそろえて在宅医療をおこなうものです。また、訪問看護や介護などのサービスも同時に提供することが多い施設です。後者は、ある程度状態の落ち着いた方を緊急時の往診もふくめて診療するスタイルで、なるべく患者(ご家族)の意向に添った医療を提供するもので、この場合のQOLは患者の満足度ということになるでしょう。前者の場合は、「積極型在宅医療」といって、どんなに状態が悪くても入院ではなく在宅医療で診療をおこなうという要望に応じることができるかも知れません。しかし、患者側からするとどこでも受けられるサービスではなく、選択肢も狭まってしまう可能性があります。また、「その時代に受けられる最善の医療」ということからすれば、入院治療が避けられない場合も多々あります。さらに、前者の場合、医療が地域的閉鎖的となったり診療が重複化することにより「医療の質」の格差を生み、イノベーションという視点からみても不利になる可能性があります。これは、米国医療のマネジドケアの反省からも言えることです。在支診のスタイルとしては、外来型にせよ専門型にせよ常勤医が1〜2名で地域の訪問診療を行っている場合が多いので、入院医療施設と連携し、相互利用するスタイルが現実的かと思います。

3. 入院医療の現状


そこで、在宅医療における入院医療の現状を知るために、当院における在宅医療を受けている患者の入院状況を調査しました。調査期間は、2012年4月から9月までの半年間としました。その結果、のべ38回の入院がありました。これは、月平均6.3件であり、入院率は1.39 (1,000 patient days)でした。

入院の原因となった疾患を見ると、がんのターミナルによるものが最も多く29%を占め、以下呼吸器疾患(多くは肺炎)が26%、心疾患が13%、消化器疾患が11%、認知症(徘徊、暴力)と骨折が8%ずつという結果でした(図1)。

図1

図1入院疾患

がんのターミナル患者の入院は、呼吸困難や疼痛の増強、せん妄、大出血により入院を余儀なくされたものでしたが、後方支援病院への入院はスムースになされました。疼痛の増強の中には狭心症や膿胸によるものも含まれ、治療によって再度在宅療養に戻ることができました。「終末期であるからやむをえない」という診療ではこの患者は助からなかったでしょう。

また、当院では在宅での「鎮静」(鎮静剤の使用)はおこなっていません。終末期における在宅医療は、患者本人とご家族が過ごす時間をとることが主であると考えているためであり、コミュニケーションが突然とれなくなる、あるいは急に死亡する場合もあり、在宅での鎮静剤の使用は慎重にすべきでしょう。患者ご自身の意思(基本的人権である自己決定権)が損なわれる可能性や、安楽死に該当する場合も起こりうるわけで当院では「鎮静」は行っていません。したがって、患者本人の意思の変化や家族が耐えきれない(あるいは疲弊してしまった)という状況では入院治療も考慮する必要があるでしょう。

入院先は20施設であり、近隣の中核病院である、関東労災病院、川崎市立井田病院、帝京大学溝口病院が多い結果でした(図2)。当院は、川崎市のみならず都内や神奈川県下の病院42施設と連携をとっており、このような入院治療にも対応しています。

図2

図2入院先病院

次に、入院期間をみると、中央値で21日でした(図3)。長期入院例は、がんターミナル、大腿骨頸部骨折、出血性消化性潰瘍などの患者でした。

図3

図3入院期間

患者の転帰をみると、53%の患者が在宅療養に復帰していました。死亡は16%、入院・転院がそれぞれ8%であり、施設入所が5%でした(図4)。このように、入院医療と連携をはかることにより、半数以上の患者が在宅療養に復帰できることが解りました。

図4

図4転帰

次に、入院患者の予後を良性疾患(実線)とがんターミナル患者(破線)にわけ検討しました(図5)。その結果、6ヶ月生存率はそれぞれ86.8%と34.3%であり、有意差を認めました(Log-rank test, p=0.00277)。ちなみに、がんターミナルの患者の生存期間中央値(MST)は122日であり、単純な比較はできませんが、悪性疾患終末期患者の38日より長いという結果でした(在医総研便り2参照)。

図5

図5入院患者の予後

4. おわりに


当院での入院医療の現状につき報告しました。介護に依存する在宅医療は、入院医療とは根本的にことなる診療体系であり、がんのターミナルも含め病院との連携をはかり、相互利用をすることは意義の有ることと考えています(図6)。もっとも、近隣に病院がないなどの地域特性は考慮する必要があるかと思いますが、在宅医療が無理なく普遍的に行われるためにはこういった連携は必須と考えています。

図6

図6入院医療との相互利用


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