20. 日本の在宅看取り

1. 日本人の死亡原因


2011年の日本の人口動態統計によれば、日本全体で125万3463人の方が亡くなっています。その原因で最も多いのが、がんなどの悪性新生物で28.5%を占め、国民の3人に1人が悪性新生物で亡くなっていることになります。次いで多いのは心疾患で、以下肺炎が3位に浮上し、脳血管疾患がこれに続きます(図1)。なお、昨年度は東日本大震災による不慮の事故による死亡が増えています。

図1死亡原因

2. 加齢とがん化


このように、疾病構造が変化し悪性新生物での死亡が増えている訳ですが、これは75歳以上の高齢者人口が増えたために起きた現象です。例えば、がんによる年齢訂正死亡率はむしろ減少しており、長く生きるほどがんなどの悪性疾患で亡くなる方が増えるということができます。がんは、遺伝子の突然変異で生じる疾患です。長時間生きる、すなわち高齢になるほど変異のリスクが増えるのは当然であり、人間が遺伝子の突然変異により進化、たとえばある環境に適応できるようになることの代償としてがん化があるとも考えられます。人間が進化を続ける限り、がん化を防ぐことはできないというのが私の考えです。

3. 高齢者の救急搬送


また、医学が進歩し、感染症がある程度克服された結果、平均寿命が伸びるのと同時に高齢者にも救急医療を提供する機会が増えてきました。これは、地域の「往診」が減少し、緊急検査を駆使した救命救急医療がそれにかわったためです。東京消防庁の2011年度の救急搬送データによれば、救急搬送全体(72万4千399件)に占める75歳以上高齢者の割合は32%で、前年度からの増加分の8割近くを占めており、今後増加していくと予想されています。すなわち、このまま行くと急性期病院が高齢者であふれてしまう事態が起きるのです(いわゆる病院の2040年問題)。

4. 在宅死は増えている


さて、これらの高齢者の「死」はどこで迎えられているのでしょうか?日本人の死亡場所の推移を見てみると、以前は自宅などでなくなる方が多かった訳ですが、1975年以降、病院でなくなる方が増え、2005年には78.4%になりました。しかし、2006年(平成18年)くらいから在宅での死亡率が上昇してきたのです(図2)。この時期にいったい何が起きたのでしょうか?

図2在宅死亡率の推移

5. 在宅死が増えている原因は?


在宅での死亡率が上昇してきた一因には、高齢者の診療を担っている地域の診療所の看取り件数が増えたことや、2006年に新設された在宅療養支援診療所(在支診)が増えたことなどが理由として考えられます。ところが、在支診の届け出をしている診療所のうち実に40%くらいは全く看取りをしていないという現状があります。そのため、厚労省は2012年度より「機能強化型」在支診として在宅看取りの件数を年間2件以上することを義務づけましたが、これは届け出無しでも看取りをしてきた開業の先生方や、在支診としてまじめに医療に取り組んできた施設にしてみれば決して機能的に強化されたものではなく、あくまでも政策誘導にすぎません(在医総研便り19参照)。

6. 在宅での看取りの件数の実際


それでは、実際の在宅での看取りはどれくらい行われているのでしょうか?ここでいう在宅とは、単に自宅などの家だけではなく、例えば特別養護老人ホーム、老人保健施設、有料老人ホーム、グループホームなどの医療機関以外の居住地が含まれます。先に述べた厚労省の人口動態統計によって、在宅での死亡件数というものがわかるのですが、これでは若い方が突然自宅で亡くなった場合なども含まれるので、実際高齢者が在宅で療養を行った結果、医師による死亡診定をうけた件数なのかはわからないのです。
しかし、2006年より在支診制度ができ、在宅での看取り件数を報告する義務ができたために、この数から在宅での看取りによる死亡数を推定することができます。そこで、読売新聞社の阿部文彦氏による2007年のデータ(http://www.ikss.net/enterprise/images/167.pdf)をもとに各都道府県別に在宅死亡数(75歳以上の死亡数で補正)をグラフにすると(図3)、一番多いのが東京都で以下、大阪府、奈良県、京都府、神奈川県などの都市部の人口密集地であることがわかります(なお、2008年のデータでは、東京都の次に神奈川県が入っており、高齢化の影響があるかと思われます)。逆に、一番少ないのは高知県、富山県、北海道、福井県、秋田県の順で、高知県は療養病床数が多いために、入院治療を行う頻度が高い可能性があります。その他の地域は、雪の多い地域であることが一因と考えられ、移動距離を含めて訪問診療は困難なことが予想されます。

図3都道府県別在宅死亡者数

7. 在宅看取りデータの活用


しかし、2007年のデータの回収率は37.4%にすぎず、届け出なしで看取りをしている診療所も多いことから、この結果は比較的積極的に看取りに取り組む在支診のデータを反映しているとも考えられます。実際、在支診の数と看取り件数をプロットすると正の相関関係があることがわかります(図4)。いずれにせよ、実際に在宅で看取られている患者の実数は不明と言わざるを得ませんが、こういったデータをもとに地域での在宅看取りを増やすための対策を講じることは意義のあることかと思われます。

図4在支診数と在宅死亡者数の相関


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