29 在宅患者の生命予後

1 日本人の寿命

第21回の生命表によれば、日本人の寿命は、男性79.6歳、女性86.3歳といわれています。これは、この年の出生児10万人がどのくらい生きるかを表した平均余命です。したがって、各世代の人があとどのくらい生きるのかということは世代ごとの数字を見る必要があります。たとえば、90歳の男性であれば、平均余命は4年ほどです。近年、平均寿命の伸びに影響した要因としてあげられるのが感染症の克服です。次に心臓疾患が予防や治療により克服された成熟社会では、がんが寿命に関係する疾患になります。このようにして日本人は急速に寿命をのばし、現在の超高齢化社会での死亡原因の一位はがんなどの悪性腫瘍です。

2 年齢別の生存曲線

日本人の生存曲線を年齢別にみるとどうなるのでしょうか。総務省統計局の人口推計(2010年)、および国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(2012年1月、出生・死亡の中位推計)をもとに、2010年現在で50歳から90歳の各世代の生存曲線を描いてみます(図1)。90歳の方は出生後の衛生環境や戦争の影響で早期の死亡が有りますが、高齢になるにしたがって減少は緩余になり、寿命付近で死亡数が増加します。50歳では、早期の死亡はほとんどなく、寿命近くになると死亡数が増加します。このように、生存曲線自体も時代とともに右側にシフトしてきているのがわかります。

図1

3 在宅患者の生存曲線

それでは、在宅患者の生存曲線はどのようになるのでしょうか。当院の患者471名(年齢の中央値82歳)の生存曲線を示します(図2)。その結果、3年生存率は51%でした。これは、生存期間の中央値を3年と考えると、平成24年度の簡易生命表による82歳の平均余命(男女平均)の8.7年より短いと考えられます。

図2在宅患者の生存曲線

これを良悪性の疾患別に検討したものを図3に示します。悪性疾患(Malignant)は良性(Benign)にくらべて有意に予後不良でした(Log rank test, p=0.0245)。

図3疾患別の生存曲線

次に生存率に関与する因子を、Cox比例ハザードモデルを用いて検討しました。年齢(80歳以上、80歳未満)、性別、疾患(悪性と良性)で検討したところ、悪性疾患(ハザード比12.11, 95% CI 8.578~17.1, p<0.001)と性別(ハザード比0.69, 95% CI 0.499~0.951, p=0.0234)が予後に関連していました。

4 がん患者の生存曲線

次に、がん患者100名の生存率を検討しました。年齢の中央値は78.5歳と高齢で、男性が多い傾向でした。また、がんの内訳は、胃がんなどの消化器がんが最も多く61%を占め、以下呼吸器21%、腎臓・泌尿器8%、甲状腺・乳腺が5%を占めました。(図4)。生存曲線から1年生存率は11.5%で、生存率の中央値(MST)を求めると39日でした(図5)。すなわち、在宅医療でのがんの診療は死亡するまでの一ヶ月余を診療している事になります。

図4がんの種類

図5がん患者の生存曲線

次に、年代ごとのMSTを検討しました。その結果、年齢が高齢になるにしたがって生存期間は延長する事が明らかになりました(図6)。とくに90歳代の方は80日と、平均の二倍であることがわかりました。これは、高齢者ほどがんの進行が緩余であることを臨床的に示しているものと考えられました。

図6年齢別のMST

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