19.「機能強化型」在宅療養支援診療所の問題点

1「機能強化型」在支診とは? 


2012年の診療報酬改定により、以下の条件をみたす在宅療養支援診療所(在支診)については「機能強化型」として診療報酬の引き上げがおこなわれました。それは、従前の在支診(「従来型」)の用件に以下を追加するものです。

1 所属する常勤医師が3名以上
2 過去1年間の緊急の往診実績5件以上
3 過去1年間の看取り実績2件以上

1の常勤医師3名は通常の診療所ではなかなか条件が厳しいですが、他の診療所や病院と連携してもよいことになっています。これは、24時間365日対応の負担を軽減する体制と考えられていますが、ここでは、実際の連携の内容を確認する必要があります。皆さんも、全く知らない診療所の医師の在宅診療をうけることに不安はありませんか?実際問題として、同じ系列の診療所のような場合を除いて、近くであっても全く診療形態や診療能力がわからない施設と連携を組む、すなわち患者情報を共有するというのは現実的には困難が伴います。実際、強化型として連携している施設間であっても、相手の診療所の患者のことは知らないという無責任なものもあるようです。

次に、在支診である以上、2、3の用件は当然のことです。ちなみに当院での緊急往診件数は400件以上、看取りは20件以上です。すなわち、この条件とは、在支診の届け出をしていても在宅での看取りを全くしていない診療所が約半数を占める、という現状が反映された厚労省の誘導措置にすぎません。実体のともなわない連携や、診療実績がない施設が連携という名のもとに包括されることも問題です。もちろん、在支診の届け出をしなくても地域で往診や看取りをしている通常の診療所が多く存在することも事実です。実際、最近数年での在宅での看取り率は上昇しており(在医総研便り20参照)、こういった診療所の先生方のご努力もあるかと思います。往診や看取りは地域医療にとっては本来、当然提供されなくてはならないものなのです。2、3の用件を満たさない在支診は認定を取り消す、というのが本来とるべき措置ではないでしょうか。

2 高齢化社会では医療費・介護費は増加する


そうでなくても在宅医療のサービスは決して安いものであはりません。今後高齢化社会を迎え、医療費のみならず介護費も膨張することが明らかである中で、財源を確保する努力をせずに医療費を引き上げることには賛成できないのは医療を受けられる皆様も同じではないかと思います。日本の債務残高(国の借金、その額は実に900兆円以上)は2012年度に対GDP比で220%に到達し、いつ財政破綻してもおかしくない状況です。すなわち、借金があるのに収入の何倍ものお金を使っている(使おうとしている)のです。「社会保障と税の一体改革」は増税が決まっただけで頓挫しており、この増税分は社会保障にはまわるはずもなく、いままでの国の借金の金利に充填されるにすぎません。在宅重視ということは聞こえは良いのですが、これは医療費を削減している一方で、結局介護費用などにツケをまわしている一面もあり、削減した病床数に相当する何らかの施設も考えなければ「治療の放棄」にもつながりかねません。重要なことは無駄を省き効率的なしくみを作ることで、患者によりよいサービスを提供することなのです。

3「機能強化型」による診療は「従来型」より医療費がかかる


なんといっても、同様のサービスを提供するのにより多くの医療費がかかってしまうことが問題です。実際、1「従来型」の在支診と、2「機能強化型(有床)」との医療費(月額)を比較してみましょう(グラフの縦軸は1割負担とした場合の費用)。

通常の訪問診療を月2回行っただけの場合、1「従来型」と、2「機能強化型」との医療費の差は、月額で居宅の場合8千円であり、介護型老人ホームのような特定施設の場合は6千円にもなるのです(図1)。

図1

図1

次に、緊急往診(診療時間内)、夜間往診(18時〜6時まで)、深夜往診(22時〜6時)を1回受けた場合には、それぞれ2千円、4千円、4千円、医療費が余分にかかることになります(図2)。

図2

図2

また、在宅での看取りをした場合、このシミュレーションでは在宅酸素など他の医療費を全くかけず、追加の往診2回、緊急往診1回、深夜往診で看取りをしたと仮定すると、総額で3万4千円もの差になることがわかります(図3)。

図3

図3

ただし、医療費の個人負担限度額があるので、個人が支払う額は1万2千円(1割負担の場合)を超えないわけですが、実際にはこれだけの医療費が発生しているのです。もちろん、訪問介護・看護などのサービスは別途料金がかかります。

4 おわりに


当院は、1章で述べた1から3の用件を満たしておりますが、「機能強化型」ではありませんその理由は、このような形式的な政策誘導にはあえて反対する立場をとるためであり、「従来型」であっても質のよい在宅医療サービスは提供できると考えるからです。「機能強化型」とはすなわち、医療や行政サイドの都合から種分けされた便宜上の呼び名であり、在支診としてきちんと機能している「従来型」とくらべて必ずしも機能が強化されたものではないということです。日本が直面する経済危機の中では、国民の経済負担を抑えて生活を守ることが国のなすべき仕事であり、このような指標で診療報酬を引き上げる以前に、在宅診療のアウトカムなど質の評価が優先されるべきでしょう。


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