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オミクロン株の現状と対策

2023年01月10日

1 はじめに

 コロナ禍がはじまってから4年目に入りましたが、新型コロナウイルス(オミクロン株)による感染拡大はむしろその勢いを増し、連日のように感染者のみならず死亡者の増加が伝えられています。今の日本ではいったい何が起こっているのでしょうか。実は、感染の制御はもはや不可能であり、被害軽減策と逆行しているのが今の日本の現状なのです。そこで、本稿ではオミクロン株感染拡大の現状を分析し、感染防止対策について一人一人が現実的にできることを考えてみたいと思います。さらに、治療薬開発の現状と2価ワクチン接種に関する臨床研究について紹介します。

2 オミクロン株による「変異の群れ」

 2021年の暮れにB.1.1.529系統とその亜系統(オミクロン)が出現して以降、2023年1月現在の2744種類のゲノム解析の結果では、世界中でオミクロン株が主流となり、他の系統はほとんど検出されないと推定されています(図1)1)。オミクロン株の特徴として、今までと違って多種類の変異が短期間のうちにそれぞれの国や地域で広がっていることが挙げられます。現在までの流れを大雑把に捉えると、BA.2からBA.5を経由して「変異の群れ」とも言われる、XBBやBQ.1が広がっているのです(図2)。

図1 ゲノム解析によるオミクロン株の多様性(文献1より転載)

図2 オミクロン株が変異する過程

 実際、日本国内では、2022年7月頃にBA.2系統からBA.5系に置き換わりが進み、BA.5が主流となった後に10月以降ではBQ.1系統の割合が上昇しています2)。米国では、現在BQ.1.1やXBB.1.5といった免疫回避や感染力の強い変異株が主流を占めつつあり、中国ではBA.5.2やBF.7が主流になっています(2023年1月4日現在)。ここで世界的に起きている変異は、大きく分けて4つあると考えられています3)。それらは、1)BA.2の第二世代変異(BA.2.75, BA.2.10.4, BJ.1など)と言われるもので、スパイクタンパク(Sタンパク)の中のN末端や受容体結合部位(RBD)変異を伴い、免疫低下患者の慢性感染によってもたらされたというものです。2)相同組み替えで、単純なものでは、ある系統とその亜系統が共存する場合(BJ.1+BA.2.75からXBB)があり、複雑なものでは、系統が異なった者同士の組み替え(Delta+BA.2からXAY)があります。この現象は、一つの細胞に複数系統が感染した場合にも生じると言われています。3)抗原ドリフトといって、BA.2のように一度に出現するのではなく、BA.5で見られるような段階的に抗原性の変異が蓄積するものです。この代表格が、BQ.1の亜系統であるBQ.1.1です。4)収斂進化といって、複数の系統で共通した領域(抗原性のあるRBD領域)に変異が集中するもので、獲得免疫から逃避する可能性が出てきます。オミクロン株で従来型のワクチンが感染防御という点で効きにくくなるのもこのためです。
 もちろん、これらは構造タンパクの一部であるSタンパクの変異ですが、変異はここだけで生じるのではなく、ウイルスの複製や放出、自然免疫回避に必要なタンパク部分の変異もあります。例えば、日本で昨年12月下旬に感染拡大した、BA.5.2.1は、アクセサリータンパクであるOrf9b部位にも変異があり4)(Orf9b産物はTOM70というミトコンドリアのタンパクを阻害するので、I型インターフェロンの産生に影響します)、これが機能しなくなると弱毒化の可能性があります。アクセサリータンパク(Orf8)の変異は、武漢株の初期でもみられた現象で、この後ウイルスは消滅しています。
 変異株の病原性に関してインドからの報告(査読前プレプリント)によれば、BA.2.75とXBBによる感染者(両者で84%)のうち、90%以上が発熱などの症状はあったものの軽症で、76%は自宅療養を受け、その99%は対症療法で回復し、入院を含めると致死率は0.19%であったということです5)

3 オミクロン変異株への対策

1) ウイルスの空気感染を防ぐ
 社会的な行動制限などの感染対策が不可能な現在、残された感染防御策は、個人の感染を成立させないこと、すなわちウイルス粒子を取り込まないことだけです。そこで重要になるのが環境消毒、とくに空気清浄とマスクの装着です。室内であれば、まず換気が重要になりますが、建物に応じた個別の対応が必要です。最近では、炭酸ガスのモニタリングや、空調、空気清浄機にHEPA(High Efficiency Particulate Air Filter)などの高性能フィルターを用いることもありますが、手間やコストが問題です。また、マスクは高性能マスクであるN95やFFP3規格が推奨されます。当院では、診療にはサージカルマスクとN95を併用するか、レスピレーター(CleanSpace HALO, Moraine社)6)を用いています(図3)。これらは長時間の使用や会話が困難(とくに高齢者)であるという欠点がありましたが、最近ウェアラブルの空気清浄機 (Dyson Zone™, Dyson社)7)なども開発されています(図4)。

図3 CleanSpace HALO (文献6から転載)

図4 Dyson Zone™(文献7から転載)

2) 粘膜免疫を高める
 感染してしまってもそれに打ち勝つ防御(免疫)があることと、炎症反応を長引かせないことが重要です。コロナウイルスが侵入するのは、主として鼻腔や口腔であり、そこから呼吸器や消化器に到達する可能性があります。また、口腔内にはワルダイエル咽頭輪という免疫組織 (MALT)があり、外敵の侵入を防いでいます8)。また、歯周病はCOVID-19の重症化と関連があると報告されており9)、口腔ケアは重要です。そこでの防御ができないとウイルスは血流に入り、ウイルス血症をおこして血管を含めた全身臓器の細胞に感染します。最近の研究で、SARS-CoV-2は早期からおそらくは血流を介して複数臓器に感染することがわかっています10)。例えば、脳では神経細胞で増殖し、その臓器に特異的な変異をします。したがって、気道からのウイルスが陰性になっても、それはウイルスがいなくなったことにはならないのです。このことは、COVID-19罹患後症状(いわゆる後遺症)を考える上で重要ではないかと思います。
 鼻腔と口腔での感染は、粘膜細胞を介して起こります。粘膜には、粘液とともに、IgAという抗体が存在しています。気道では、線毛運動も感染防御には重要です。さらに、初動免疫である自然免疫が働くためには白血球(好中球、リンパ球、樹状細胞など)が活躍します。これらを強くするためにはビタミン類(A, C, Dなど)や亜鉛の摂取、身体を冷やさない、過労を避けるなどの基本的なことが重要になります。

3) COVID-19の治療薬
 これまでに承認されている薬剤のオミクロン株に対する効果を調べるために、臨床分離株(BA4.6)を用いた検討がなされています11)。その結果、4種類の抗体薬(ソトロビマブ、ベブテロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ)のうち、効果がみられたのは、ベブテロビマブのみでした。また、3種類の抗ウイルス薬(レムデシベル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビル)はすべて高い増殖抑制効果を示しました。さらに、BA.4.6系統は、ワクチン被接種者あるいはブレイクスルー感染者の血漿により中和されましたが、その中和活性は従来株と比べると低いものでした。
 新薬の開発は進んでいるのでしょうか。これには、CRISPR-Casシステムを用いた機能欠失スクリーニングによるSARS-CoV-2と宿主因子の相互作用の検討があります。現在のところ、コレステロール生合成系とリソゾーム経路(ウイルスが細胞から出る経路)が標的としてあげられており12)、既存薬ではタモキシフェンやスタチンの効果が期待されます。さらに、ウイルスタンパクと宿主タンパクとの相互作用を網羅的に調べた結果、降圧薬(α/βブロッカー, 利尿薬)、向精神薬(フラボキサミン)、抗炎症薬(インドメタシン)などが候補に挙がっています13), 14)。また、最近ACE2阻害作用から、ウルソデオキシコール酸(UDCA)も注目されています15)

4) ワクチン接種
 日本でもオミクロン株対応2価ワクチン(従来株に加えBA.1ないしはBA.4/5)の接種が始まっていますが、数百人規模の試験で抗体価の上昇がみられたということや、副反応調査(接種後短期)が行われただけで、臨床効果が不明なまま接種が開始されているという恐ろしい状況にあります16)。少しずつワクチンの効果に関する情報が出てきたので、それをもとにワクチン接種の妥当性を検証してみたいと思います。
 米国クリーブランドクリニックからの報告(査読前プレプリント)では、2022年9月から12月(オハイオ州でオミクロンBA.4/5が流行している時期)で51,011人の病院職員(平均年齢42歳、83%が従来ワクチンを少なくとも2回以上接種、21%が2価ワクチン接種、5%が接種後SARS-CoV-2のNAATで陽性)を対象にして、2価ワクチン接種(BA.4/5)の有効性(感染予防効果)を検討しています17)。その結果、2価ワクチンの接種は感染リスクを軽減(HR 0.70, 95%CI 0.61-0.80)することがわかり、ワクチンの有効率としては30% (95% CI 20-39%)でした。また、これは、以前の感染からの期間とも関連し、2価ワクチン接種の9-12ヶ月前の場合はリスクが3.5倍になっていました。さらに、従来株のワクチン接種回数が多いほど、2価ワクチンを打ってからの感染リスクが高いこともわかり、抗原原罪を示唆する結果となっています(図5)。
 一方日本のデータはどうでしょうか。2022年9月20日から11月30日までのBA.5流行時期に発熱外来を受診した患者4,040名(SARS-CoV-2のPCR陽性率51.7%、年齢は中央値で36歳、ワクチン接種歴が確かなもの)を対象とした、2価ワクチン接種の有効率(発症予防効果)が、昨年12月13日に国立感染症研究所から公表されています18)。その結果、オミクロン対応2価ワクチン(BA4/5)接種後14日以降の接種者の未接種者と比較した感染リスクは、調整オッズ比で0.31 (95%CI 0.14-0.68)でした。このことから、ワクチンの有効率は69% (95%CI 32-86)となります。これは、BA.1接種者のリスク(OR 0.27, 95%CI 0.15-0.51) と差は見られませんでしたが、3回目接種後14日から3ヶ月(OR 0.20, 95%CI 0.13-0.32)、4回目接種後14日から3ヶ月(OR 0.26, 95%CI 0.17-0.41)ともあまり差がないという結果でした(図6)。ただし、従来型ワクチン接種後でも時間が経つほど予防効果は減弱するので、2価ワクチンに関してもさらなる検討が必要でしょう。

図5 2価ワクチン接種後の感染リスク(文献17より作成)

図6 ワクチン接種効果の比較(文献18より作成)

4 おわりに

オミクロン株に関する現状と、個人としてできることを中心に考えてみました。感染対策の基本である、ウイルスを空間にとどまらせないことと、感染の入り口(すなわち口と鼻の粘膜)の防御が重要であることに変わりはありません。

なお、本論文に関して、開示すべき利益相反関連事項はありません。

文献

1)  NextStrain. https://nextstrain.org (cited 2023/1/4)
2)  国立感染症研究所 2022年12月16日 第23報 https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11680-sars-cov-2-23.html
3)  Roemer C, et al. thomasppeacock #1 November 25, 2022     https://virological.org/t/sars-cov-2-evolution-post-omicron/911
4)  Courtesy of Ted Brautigan @T_Brautigan (December23, 2022)
5)  Karyakarte R, et al. medRxiv. Jan 6, 2023     doi: medRxiv preprint https://doi.org/10.1101/2023.01.05.23284211
6)  https://www.moraine.co.jp/products/ppe/mask/halo/
7)  https://www.dyson.co.jp/community/news/dyson-zone-headphones.aspx
8)  松井英男. 川崎高津診療所紀要. 3(2): 137-146, 2022
9)  Marouf N, et al. J Clin Periodontol. 48: 483-491, 2021     doi: 10.1111/jcpe.13435
10)Stein SR, et al. Nature. 612: 758-763, 2022       doi: 10.1038/s41586-022-05542-y
11)Takashita E, et al. N Engl J Med. 387: 2094-2097, 2022       doi: 10.1056/NEJMc2211845
12)Daniloski Z, et al. Cell. 184(1):92-105. e16. 2021 doi: 10.1016/j.cell.2020.10.030.Epub 2020 Oct 24.
13)Gordon DE, et al. Science. 370(6521):eabe9403, 2020       doi: 10.1126/science.abe9403. Epub 2020 Oct 15.
14)Zhou Y, et al. Nat Biotech. Oct 10, 2022       doi: 10.1038/s41587-022-01474-0
15)Brevini T, et al. Nature. (2022) DOI: 10.1038/s41586-022-05594-0
16)厚生労働省 ファイザー社のオミクロン株対応2価ワクチンについて https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_pfizer_bivalent.html#001
17)Shrestha N, et al. medRxiv preprint doi: 10.1101/2022.12.17.22283625
18)国立感染症研究所 2022年12月13日 https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/11688-covid19-9999.html (cited 2022/01/09)



川崎高津診療所コラム「オミクロン株の現状と対策」v1.3  2023年1月10日公開
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