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新型コロナウイルス感染症を幹細胞で治す

2022年05月09日

1 幹細胞の種類

 幹細胞には大きく分けて三つの種類がある。一つは、受精卵から胚が形成される過程で、その内部の細胞を培養したもので、胚性幹細胞(ES細胞)と呼ばれる。次に、ある程度身体の一部に分化した細胞の中にも幹細胞(造血、間葉系など)があり、体性幹細胞と呼ばれる。さらに、体細胞に人工的に遺伝子を導入して細胞を初期化した幹細胞として人工多能性幹細胞(iPS細胞)がある(図1)。
 

図1 幹細胞の種類

2 間葉系幹細胞 (MSC)

 間葉系幹細胞(MSC)は、1)脂肪、骨・軟骨、筋肉、血管、その他いくつかの異なった組織や臓器に分化できる(多様性がある)。2)はじめ骨髄で発見されたが、脂肪、臍帯、羊膜由来のものがある。3)線維芽細胞状の形態を持ち、分化能力を維持したまま増殖できる。4)組織の修復のみならず、免疫抑制作用や抗炎症作用を持つ、といった特徴を有し、表面のマーカーとして、CD73 (+), CD105 (+), CD45 (-), CD34 (-), などが条件となる1)。さらに、脂肪、骨・軟骨などに分化した細胞は、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、エクソソームなどを放出する事によって、血管新生、抗炎症、抗酸化、抗線維化作用を発揮する2)(図2)。このため、各種疾患に対する治療方法として、MSCの利用が検討されてきた。
 

図2 間葉系幹細胞の特徴

3 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の病態と治療

 COVID-19の病態としては、オミクロン株以前のウイルスは、主として肺胞上皮に感染し、間質性肺炎を引き起こす。また、血管内皮細胞にも感染し、凝固系に異常をきたす結果、血栓形成による肺塞栓など重篤な病態を引き起こす。肺での病態では、免疫系の暴走によるサイトカインストームからARDSをきたし、感染細胞が細胞死を起こす結果、間質の線維芽細胞などが活性化されて間質の線維化が惹起される3), 4)
 これらの病態に対して、幹細胞治療によるさまざまな効果が期待できる。まず、肺胞上皮や血管内皮細胞の障害に対する、組織修復と再生を促す作用が考えられる。次に、免疫系の細胞(T細胞、B細胞、マクロファージ、樹状細胞など)にたいして炎症反応を抑える作用がある。さらに、組織の線維化や上皮間葉転換を阻害する働きが期待できる4)(図3)。
 
 

図3 COVID-19の病態の特徴と間葉系幹細胞治療の可能性

 
 これまでの臨床試験で明らかになったことは、MSC治療の従来の治療への上乗せ効果として、1)呼吸困難例の減少や回復時間の短縮、2)肺病変のCT初見の改善、重症・危篤患者の生存期間の延長、3)重症患者の相関前投与で病状進行のリスクや死亡率を減少、4)早期の治療で機械式人工呼吸の抜管率をあげる可能性、などが指摘されており、投与時期も重要なことが示唆されている4)。抗炎症・免疫制御への影響としては、炎症性マーカーの減少や抗炎症マーカーの増加が報告されている一方で、そのような変化は見られなかったとする報告もある5), 6)。また、副反応は顔面紅潮や発熱、悪寒・戦慄などで、多くは安全で忍容性があったという4)
 米国国立医学図書館(NLM)が提供するClinicalTrials.gov7)に登録されている、COVID-19に対するMSCによる臨床試験は66例であった(2022年4月15日現在)。その国別の内訳は、米国が最も多く20例で、以下中国9例、インドネシア6例であった。さらに、治験が終了したものは16例、募集中が18例であった(図4)。このうち、症例数がもっとも多い中国の報告(NCT04288102)を検討すると、これは、臍帯由来MSCを用い(4x10cells/iv/x3)、重症COVID-19患者100例による無作為、二重盲検、プラセボコントロールによるフェーズ2の臨床試験である。結果は、肺病変部位(とくに充実性病変部位)の容積が減少し、6分間歩行検査が改善したという。また、試験は安全に施行可能であり、効果が期待できるとしている6)
 

図4 COVID-19に対するMSCを用いた治療の進捗状況(a)と国別件数(b)

 
 COVID-19をMSCで治療する場合のコストを検討すると、現在日本で認可されているヒト同種骨髄由来MSCのうち、脊髄損傷用幹細胞(ステミラック®注)を2x108個使用すると仮定した場合、この製剤は、1パックあたり幹細胞が0.5~2億個含まれ約1,500万円なので、治療費は1,500万円から6,000万円という事になる。また、もう一つのGVHD用骨髄由来幹細胞(テムセル®HS注)を使用した場合、この製剤は、1パックあたり720万個の幹細胞を含み約88.5万円なので、治療費は2,460万円かかることになる。いずれにせよ、市販の製剤を使用すると仮定した場合、現状では高額な治療費がかかってしまう。
 COVID-19の治療の選択肢は増えたとはいえ、内服薬の一般への普及はまだまだであり、抗体治療も高額である。今回紹介したMSCによる治療も魅力的ではあるが、本邦での臨床試験やコスト面での検討など、まだまだ課題は多い。
 
 
文献

  1. Tsuchiya A, et al. Inflammation and Regeneration. 37:16, 2017
  2. Pittenger MF, et al. npj Regenerative Medicine. 4:22, 2019
  3. Karki R, et al. Cell. 184(1):149-168.e17, 2021
  4. Xu R, Feng Z, Wang FS. eBioMedicine. 77:103920, 2022
  5. Zhu R, et al. Cell Res. 31:1244-62, 2021
  6. Shi L, et al. Signal Transduction and Targeted Therapy. 6:58, 2021
  7. https://clinicaltrials.gov (searched in 2022/4/15 by the key words: mesenchymal stem cells and COVID-19)

 
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川崎高津診療所コラム
2022/05/09 公開

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