お知らせ

オミクロン株による新型コロナウイルス感染症

2022年05月23日

1 はじめに

 新型コロナウイルスの蔓延がはじまってから3年目を迎え、ワクチンや治療薬の登場で感染をある程度制御することが可能になりつつあるが、今度は南アフリカからオミクロン株が出現し、感染状況は新たな局面を迎えつつある。オミクロン株の特徴として、感染スピードが速く、各地域でそれぞれの変異株が流行している状況が挙げられる。ワクチンの追加接種や病原性の低下もあって、多くは軽症で済むことが多い印象を受けるが、高齢者での感染では新たな問題点も浮き彫りになっている。すなわち、高齢者の入院治療のタイミングと高齢者施設でのクラスター対策である。
 

2 日本と世界の感染状況

 日本では、2021年暮れに空港検疫で最初のオミクロン株が確認された。米国やヨーロッパの感染ピーク後に、2022年1月より国内での感染者が増加の一途をたどり、感染者数では2月9日に749人(人口100万人あたり1週間の平均値、以下同様)となり、死亡者数では2月28日に1.87人とそれぞれピークに達したが、諸外国から比べると低い水準にとどまった1)。アジアでは、3月に香港で爆発的な感染がおこり、死亡者数も激増したが、その後終息に向かっており、韓国でも3月に感染者数が激増したが、死亡者数は増加しなかった1)。この間、日本ではデルタ株は姿を消し、ほぼオミクロン株(BA.2系統)に置き換わっているとされる2)。また、ウイルスの遺伝子をもとにした系統樹の解析では、全国の地域ごとに特徴的な系統の分布が認められ、関東地方を中心に北海道、九州地方などに広まっていった可能性や、関西や九州地方を中心に検出される株などもみられる2)。このように、オミクロン株は国・地域ごとに異なった株が感染を広げており、全体としては終息傾向にある。ただし、南アフリカでは、さらに感染力の強いBA.4およびBA.5系統が検出され、日本の検疫でも確認されていることから、今後も警戒が必要である。
 

3 当院の在宅患者での検討

 今回のオミクロン株による第6波では、高齢者での感染、とくに高齢者施設でのクラスター感染が問題となった。そこで、2022年1月から4月までの間に当院で診療を受けたCOVID-19の在宅患者20例(家族も含む)の検討を行った。なお、診断は、鼻咽頭拭い液を用いた抗原ないしはPCR検査を行ったが、遺伝子検査までは行っていないため、国内の感染状況からオミクロン株感染と判断した。
 20例の内訳は、男性5例、女性15例で、年齢の中央値は85.5歳(55歳から101歳)であった。18例(90%)で高血圧、アルツハイマー病、呼吸器疾患(気管支喘息、COPD、気管支拡張症)などの基礎疾患があった(図1)。
 初発症状では、発熱が16例(80%)と最も多かったが、多くは37度台の微熱であった。アルツハイマー病の患者では、訴えがはっきりせず食思不振のみという例もあった。咳嗽、咽頭痛の訴えはむしろ少なく、嘔気・嘔吐という消化器症状だけの場合もあった。さらに、呼吸困難などの急性症状を呈する例も見られた(図2)。
 

図1 基礎疾患

図2 初発症状

 重症度は、軽症が15例(79%)と最も多く、以下中等症1が1例(5%)、中等症2が2例(16%)であった(図3)。現在の川崎市における入院適応は、血中酸素飽和度をもとに判断されているので、軽症の場合は入院ができず、持病の悪化で後日やむなく入院という事例もあった。また、一人暮らしや老老介護、介護者の感染などの状況から、入院での経過観察が必要と考えられてもなかなかできる状況ではなかったため、可能な限り当院が対応した。
 感染経路では、施設職員が10例(50%)と半数を占め、高齢者施設でのクラスター発生の要因と考えられた。その他では、家庭内6例、デイサービス先2例(いずれも他の利用者から感染)、不明が2例であった(図4)。高齢者施設でのクラスターは2カ所で発生したが、自治体より高性能マスクや防護服、抗原検査キットなどが十分量支給さたこともあり、施設内のゾーニングによる患者の隔離、感染防護体制をとった介護の徹底を図ることで何とか収束させることができた。
 

図3 重症度

図4 感染経路

 入院治療は、6例(30%)で行った。治療内容としては、ソトロビマブ(ゼビュディ®)注射2例、酸素投与ならびに点滴治療が2例であり、うち1例でレムデシビル(ベクルリー®)、ステロイド、バリシチニブ(オルミエント®)による治療を行った(症例1)。また、脱水により急性腎障害をきたした例も最終的には入院治療が必要であった(症例2)。在宅での治療は4例で行った。内訳は、モルヌピラビル(ラゲブリオ®)内服が3例であった。この薬は剤型が大きく高齢者には飲みにくいが、食事に混ぜて食べることで全例が完遂できた。また、食思不振が改善せず、脱水症のため点滴治療を1例で行った(症例3)。その他の10例は、在宅での経過観察のみであった。転帰としては、軽快が16例(80%)で無症状患者は1例であった。軽快例の多くは、自治体の観察期間である10日以内に治癒した。死亡は3例あり、もともと老衰状態であった2例は、経口摂取不良による脱水が進行し、ウイルスは陰性化したものの、診断からそれぞれ41日、33日で死亡した。気管支拡張症と慢性気管支炎のある1例では、呼吸不全にて発症し、入院治療を行ったが9病日に死亡した。
 当院では、ほとんどの在宅患者はmRNAワクチンの3回目接種を2月までには終了していた。昨年のデルタ株感染時と異なり、ワクチン接種が進んでいたので感染しても軽症で済んだ可能性がある。2種類のmRNAワクチン(ファイザー社製BNT162b2, モデルナ社製mRNA-1273)の場合、2回目接種から6ヶ月が経過してしまうとその効果(発症や重症化の予防)は、オミクロン株の場合ほとんど期待できない3)。したがって、3回目接種が必要になるが、その効果もBNT162b2では3ヶ月で半減してしまう3)ので、このままワクチンを打ち続けるのか、あるいは別のワクチンに変更するのかなど、オミクロン株に対する新たなワクチン戦略が必要である。

症例1 84歳、女性、中等症2
 患者は、基礎疾患として高血圧、脳梗塞後遺症、アルツハイマー病などがある。デイサービス先でSARS-CoV-2に感染し、発熱をきたしたため入院後ソトロビマブの治療を受けた。しかし、経過中に症状が悪化し、酸素投与とレムデシビル、デキサメタゾン、バリシチニブの投与を受けた。第10病日に軽快退院となったが、退院後も食思不振が続き、嘔気・嘔吐があるため往診となった。念のためおこなったSARS-CoV-2抗原検査(鼻咽頭)で陽性が確認され、介護上の問題もあり再度入院となった。その際、初回の経過から10日が経過していたのでCOVID-19は治癒とのことで、自治体への再度の発生届が必要になり、搬送先も前回入院の病院ではなく、別の病院を探さなければならなかった。再入院先での検査では、胸部CT上肺炎の初見はなかったが、小腸の亜イレウスとの診断で点滴治療を行い軽快した。最近の報告4)では、SARS-CoV-2のウイルス断片が長期間消化管にとどまり、症状と関連があることも指摘されているので、本例のように消化器症状が続く場合は、持続感染なども念頭に置いて対応することが重要と考えられた。

症例2 89歳、男性、軽症
 患者は、基礎疾患として気管支喘息、高血圧、慢性腎臓病などがある。デイサービス先で感染し、帰宅後3日目に発熱をきたしたが翌日には解熱した。高リスクなため入院を要請したが、血中酸素飽和度の低下がないので優先順位が低くなった。同居家族も感染をきたしたが第10病日には軽快し、経過観察を終了した。しかし、家人の話によれば、その後も食欲低下が続き、あまり飲食をしなかったとのことだった。第20病日に行ったPCR検査では陽性ではあったが、Ct値が36.92と高値だったこともあり治癒したと判断した。しかし、患者は第27病日に血中酸素飽和度の低下をともなう呼吸困難をきたし、救急搬送された。診断は、脱水による急性腎障害で、点滴治療後に軽快退院した。このように、COVID-19は軽症でも、持病の悪化により入院治療が必要なケースが見られた。
 

症例3 88歳、女性、軽症
 患者は、基礎疾患として高血圧、骨粗しょう症、アルツハイマー病がある老衰患者である。ADLはベッドで寝たきりのことが多く、認知機能の低下も顕著であったが食事は介助下に可能であった。発熱と食思不振で発症し、発熱は翌日には解熱したが、経口摂取がすすまず次第に衰弱していった。第18病日の抗原検査は陰性で、COVID—19は治癒したと考えられた。ADLの低下とともに脱水状態となったため、施設において点滴治療を行ったが残念ながら第41病日に死亡した。本例では、COVID-19自体は軽症と考えられたものの、脱水を契機に状態が悪化していった。老衰の高齢者では、終末期医療も念頭に置いた対応が必要と考えられた。

4 オミクロン株の病態

 オミクロン株(BA.1)は、それまでのウイルスとは系統が異なり、南アフリカから忽然と現れた系統である。南アフリカにおける実行再生産数はデルタ株の3.3倍と考えられ5)、あっという間に種の置きかわりが起きた。細胞を用いた実験では、デルタ株と比べて合胞体を作る割合が少なく、Sタンパクの開裂も弱く、ハムスターを用いた感染実験では、細気管支や2型肺胞細胞への感染が少なく、病原性も低いと考えられている5)。ところが、現在主流となっているBA.2系統の実行再生産数は、BA.1の1.4倍で6)、さらに感染が広がりやすいと考えられている。また、既存mRNAワクチンによる中和抗体の効果は、BA.1同様減弱しているので注意が必要である。さらに、鼻粘膜細胞を用いた組み替えウイルスによる細胞実験では、BA.2はBA.1に比べると複製効率や合胞体形成能も高く、ハムスターを用いた感染実験では、病原性も高かったという報告6)がある一方で、分離ウイルスによる感染実験では、病原性に差はなかったとする報告7)もある。このように、オミクロン株は感染しやすい反面、病態としては軽症、すなわち弱毒化している可能性がある。実際、当院の臨床例の検討でも、ワクチン接種を行っていたとはいえ臨床的な肺炎を起こす例は少なく、病原性の低下が示唆された。
 

5 おわりに

 オミクロン株による新型コロナウイルス感染症に関して、当院の在宅患者に関する臨床データをふまえて解説した。現在のオミクロン株(主としてBA.2)による感染は終息傾向にあるが、さらなる変異ウイルスによる感染爆発にも柔軟に対応できる体制が必要である。そう言い続けてすでに3年が経過しようとしているが、最終的にはそれぞれの地域で頑張るしかないといったところであろうか。
 
 
文献

  1. Our World in Data. https://ourworldindata.org (cited 2022/5/9)
  2. 国立感染症研究所 COVID-19関連情報 (cited 2022/5/9)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/11119-covid19-16.html
3) UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under 
investing in England. Technical briefing 34. 14 Jan, 2022
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1048395/technical-briefing-34-14-january-2022.pdf(cited 2022/01/24)
4) Natarajan A, et al. Med. 3, 1-17, 2022 https://doi.org/10.1016/j.medj.2022.04.001
5) Suzuki R, et al. Nature. 603, 2022 https://doi.org/10.1038/s41586-022-04462-1
6) Yamasoba D, et al. Cell. 2022  https://doi.org/10.1016/j.cell.2022.04.035
7) Kawaoka Y, et al. Res Sq. 2022  https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1375091/v1
 
 
Published on line 2022/05/23 (v1.9)
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本稿は、「川崎高津診療所紀要」の最新号(3巻1号2022年)にも掲載されています。

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