お知らせ

降圧薬とCOVID-19

2022年11月04日

1 はじめに

 COVID-19の治療薬として既存薬を用いるという試みはコロナ禍の当初から検討されてきました。SARS-CoV-2に関しては、細胞への侵入から複製、転写、合成さらに輸送にかけての各ステップでの標的分子が存在しますが、詳細な働きがまだ十分解明されていません。しかし、ウイルスタンパクと宿主タンパク(mRNA)相互作用の網羅的解析や、機能欠失スクリーニンングなどの方法によって、候補となる分子が明らかにされつつあります。ここでは、既存薬のうち降圧薬(カルシウム拮抗薬、レニンーアンジオテンシン系作用薬、その他)のCOVID-19治療薬(予防薬)としての可能性について述べます。
 

2 カルシウム拮抗薬

 ここでは、イランUrmia大学のBerenjiらの編集者へのレター1)を要約します。
 「カルシウムイオン(Ca2+)は細胞の働きにはなくてはならないイオンであり、これは宿主細胞のみならずウイルスにとっても同様である。すなわち、ウイルスの侵入、遺伝子の複製、翻訳、成熟から輸送におけるすべての段階でCa2+が関与する。実際、Ca拮抗薬のベラパミルは、インフルエンザAウイルスに影響を与え、ウイルスの合成が低下した。また、SARS-CoV-2でも、ニフェジピン、フェロジピン、アムロジピンは培養細胞でのウイルス増殖を抑制した。また、Zhangらの後ろ向きの臨床研究では、Ca拮抗薬の治療は、高血圧がありCOVID-19で入院した患者の粗死亡率の低下に関与していた。一方、Mendezらのコホート研究では、高血圧歴のあるCOVID-19患者の挿管率や死亡率は、Ca拮抗薬を内服していた患者で有意に高かった。このように、Ca拮抗薬の内服とCOVID-19の重症度に関しての結論は得られておらず、さらなる研究が必要である。」(引用終わり。本文中の引用文献は省略)
 

3 レニンーアンジオテンシン(RA)系作用薬(ACEI/ARB)

 血圧調整におけるRA系について簡単に説明すると以下のようになります(図1)。まず、アンジオテンシノーゲンが腎臓のレニンによりアンジオテンシンIに変換され、これを基質として細胞膜上のACEによりアンジオテンシンIIが生成されます。ACEIはこの合成を阻害しますが、同時にブラジキニンの分解も阻害します。アンジオテンシンIIは、その受容体であるAT1Rを通じて血管収縮を起こすことから、血圧上昇、炎症・線維化、細胞増殖などを起こします。ARBはアンジオテンシンIIの受容体への結合を阻止し、降圧とともに抗炎症・線維化、細胞増殖抑制などが期待できます。
 一方、ACE2はSARS-CoV-2が細胞に侵入するときに用いる受容体ですが、ACEとは逆に血圧を下げる働きがあります。これは、アンジオテンシンIIがACE2によってアンジオテンシン1-7になり、受容体であるMasRを通じて血管拡張による血圧低下、血管内皮保護作用(抗炎症・抗線維化)を発現するためです。ARBの中では、オルメサルタン(オルメテック®)にACE2を増加させる作用があります。
 

図1 レニンーアンジオテンシン系の概略図

 SARS-CoV-2ウイルスが感染するときは、ACE2受容体が多いと感染しやすくなる可能性があり、逆に感染が進むと受容体内在化(receptor internalization)によりACE2の発現が減少し、降圧効果や臓器保護効果が損なわれるのと同時にアンジオテンシンIIが増加し、血圧上昇や炎症性サイトカインの増加が危惧されます。このため、コロナ禍の初期にはRA系の降圧薬(ACEI/ARB)の内服は、ウイルス感染を起こし易くし、COVID-19の重症化や死亡につながるのではないかという懸念がありました。
 しかし、2020年3月の国際高血圧学会の声明では、1)高血圧自体はSARS-CoV-2感染のリスクではない、2)ACEI/ARBが感染の感受性を上げ、感染した場合の重症化に関連する十分なデータがないことから、通常どおり治療を継続してよいとの判断がなされました2)。現在でもこの判断は正しいのでしょうか。
 そこで、最近報告された52件の研究(延べ10万1949人)を対象としたメタアナリシスについて述べます(図2)3)。これは、ACEI/ARB内服の有無別にCOVID-19関連死亡(赤線)と重度有害事象(青線)の未調整(■)および調整(◆)オッズ比を評価したもので、内服群で両方のリスクが減少することが明らかになりました。また、高血圧群のサブグループ解析においても、未調整、調整オッズ比ともにリスクが低下することが解りました。このように、ACEI/ARBの内服は、COVID-19の重症化や死亡をむしろ軽減している可能性があるのです。
 

4 その他の降圧薬

 コーネル大学のYuらのグループは、酵母ツーハイブリッドシステム(Y2H)および質量分析法を用いて、SARS-CoV-2とヒトタンパクのタンパク相互作用を網羅的に調べました4)。その結果、218種類の既報のものと361種類の新規の相互作用が明らかになりました。さらに、2,900種類以上のFDAが承認した、あるいは研究用の薬剤との相互作用を検討した結果、23種類の薬剤を候補にあげました。その中には、降圧薬として、カルベジロール(αβ受容体遮断薬)とヒドロクロロチアジド(利尿薬)が含まれました。次に、大規模な電子健康記録(EHR)であるNMEDWを用いて内服群と非内服群のCOVID-19陽性リスクを比較したところ、これらの薬剤は感染(COVID-19陽性)リスクを有意に減少させることが解りました(図3)。また、阻害の機序は、ウイルスのSタンパクとACE2の結合を直接阻害するであろうと考えられました。
 

図2 ACEI/ARB内服患者のCOVID-19合併症リスク(文献3より作成)

図3 各種降圧薬内服によるCOVID-19陽性リスク(文献4より作成)

文献
1)Sadeghpopur S, et al. J Basic Clin Pharmacol. 33(1): 117-119, 2022
2)日本高血圧学会 COVID-19に関する国際高血圧学会の声明について
        http://www.jpnsh.jp/topics/669.html (cited 2022/10/27)
3)Baral R, et al. JAMA Network Open. 4(3):e213594, 2021
  DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2021.3594
4)Zhou Y, et al. Nat Biotech. Oct 10, 2022
        DOI: 10.1038/s41587-022-01474-0
 
 
 
 
 
 
 
川崎高津診療所コラム 「降圧薬とCOVID-19」v1.4  2022/11/04
 

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