お知らせ

高血圧治療のこれから

2022年11月09日

1 はじめに

 本邦での高血圧患者は4,000万人以上とも言われており、至適血圧にコントロールされている患者は全体の3割弱にすぎない。また、予防健診や特定健診で高血圧を指摘され、受診勧奨をうけてもなかなか受診に至らないことも問題になっている。健診結果などが医療機関と共有され、より簡単に医療機関を受診でき早期治療につながれば、高血圧治療が有効になると思われる。ここでは、高血圧治療の将来像として、オンライン診療、デジタル治療、また医療インフラの将来像とも言える医療DXについて焦点を当て概説する。
 

2 オンライン診療

 COVID-19の蔓延により、2020年4月から時限的・特例的措置として、これまで限られた条件で行われていたオンライン診療の要件が緩和された。オンライン診療の一番の問題点は、限られた情報量の中で診療を行わなければならないことであり、せっかく受診しても勧奨に終わってしまい、結局は医療機関を受診しなければならなくなることが考えられる。電話やオンラインでの診療の登録医療機関は、2020年4月以降増加したが、2021年始めは横ばい状態が続き、4月末現在では全医療機関の15.2%に過ぎず、初診から可能な医療機関となると、その数は半分くらいに減少している1)。さらに、実際の初診からオンライン診療を行った件数で見ると、当初より増えたとはいえ2021年2月ピーク時でも2,624件であり、電話診療の半分以下である(図1)1)。実際の受診時の症状を見ると、感冒症状を含む上気道症状の割合が高く、気管支炎、気管支喘息などの診療も行われていたが、高血圧の受診は少なかった1)
 このように医療機関ですら導入が遅れているオンライン診療であるが、国や企業の協力を得て次第に普及が進みつつある。「オンライン診療」でGoogle検索をしてみると(2022年10月25現在)、様々な企業がオンライン診療サービスやアプリを提供しており、協業先として通信事業者、ヘルスケア関連企業などが参入していることがわかる(表1)。医療機関がオンライン診療を行うためには、オンライン上で研修を受けることと地方厚生局への届け出(保険診療の場合)に加えて、これらの企業からサービスを受けるのが一般的である。もっとも、ビデオ会議システムのアプリだけでも診療は可能であり、当院もこれを用いたオンライン在宅診療(D to P with N)の有用性についてすでに報告している2), 3)
 さらに、最近になり診療そのものへの企業の参入も目立ってきた。例えば、コロナ禍でたびたびニュースに取り上げられていた、Fast DOCTOR (Fast DOCTOR Inc.)は、医師1000名以上を擁した地域ごとの時間外救急医療プラットフォームで、往診のみならずオンライン診療や配薬までのサービスを提供している4)。また、SOKUYAKU (JFRONTIER)は、オンライン診療、服薬指導、薬の宅配サービスを提供している5)。また、高血圧の治療でいうと、高血圧e-メデイカル(e-medical Japan Inc.)が提供するサービスも、オンライン診療に加えてチャット相談、薬の宅配などのサービスを一元化している6)。このように、最近の動向としては、バリューチェーンの垂直統合ともいうべき現象が医療分野でも起こりつつある。
 

図1 初診からオンライン診療を行った件数(2021年1月〜3月)
表1 オンライン診療サービス提供会社の例

3 デジタル治療

 デジタル治療とは、「エビデンスに基づき、臨床的に評価されたソフトウェアを使用して、患者に直接的な治療介入を行い、さまざまな行動、精神、身体の疾患や障害を治療、管理、予防すること」である7)。これまでに、2型糖尿病をはじめさまざまな治療用ソフトウェアが開発されてきたが、世界で初めて高血圧に関する治療補助アプリが日本で開発され、2022年9月に保険適応された。これは、CureApp HT (CureApp社)という高血圧治療補助アプリ™であり、日本の高血圧治療ガイドラインに基づく生活習慣の修正指導をアプリ介入により行うものである8)。治療に用いるアプリであるHERB systemは、自治医科大学にて開発された双方向性のスマホ向けアプリで、使用者が集中的かつ持続的に、血圧を下げるための生活習慣の改善ができる。方法は、高血圧に対して医学的に検証済みの非薬理的介入、すなわち塩分摂取制限、体重調整、規則的な運動、アルコールの制限などを認知行動療法で行う8),9)
 国内第III相臨床試験(HERB-DH1)に関する論文9)によれば、対象は、本態性高血圧患者のうち、食事・運動療法などの生活習慣の修正を行うことで降圧効果を十分期待できると医師が判断した者で、降圧薬の内服治療を受けていない高血圧患者で、年齢は20歳以上65歳未満である。また、スマートフォンを日常的に携帯していること、OBPが140mmHg以上180mmHg未満かつABPMによる血圧の平均値が収縮期で130mmHg以上であることが条件になる。これらの患者390例を、アプリ介入群(HERB systemとガイドラインに基づく生活習慣の生活指導を行う者)199例と、対照群としてガイドラインに基づく生活習慣の生活指導のみを行う者191例にランダム化した。主要評価項目は、治験登録後12週目におけるABPMによる24時間収縮期血圧のベースラインからの変化量とした。また、副次的評価項目は、12週目におけるOBPおよび起床時HBPのベースラインからの変化量とした。その結果、ABPM, 起床時HBP, OBPいずれもベースラインからの低下を認め、アプリ介入群(デジタル治療群)でより大きかった(図2)。その差は、それぞれ-2.4 (95% CI -4.5 to -0.3), -4.3 (-6.7 to -1.9), -3.6 (-6.2 to -1.0)mmHgであり、起床時HBP, OBPにおいて有意な低下であった。
 

図2 高血圧デジタル治療の国内臨床試験結果(文献9より作成)

4 医療DX (Digital Transformation)

 医療DXとは、「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬請求、医療介護連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)で発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通じて、保健・医療・介護や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること」とされている10)。すなわち、これまでの保健・医療・介護の関係機関がばらばらに行っていたことを一元化し、国民自身も予防を促進することによって、良質な医療やケアを受けられるよう社会や生活様式を変えていくことが前提になっている。  
 2022年9月には厚労省内で「医療DX令和ビジョン2030」が策定され、3つの柱すなわち、1)全国医療情報プラットフォームの創設、2)電子カルテ情報の標準化、3)診療報酬改定DXを目指すことになった10)。1)であるが、医療保険者等がもつ被保険者情報、健診情報、薬剤情報などをオンライン資格確認システムに取り入れることで、医療機関や薬局の窓口での確認を容易にし、より良い医療を受けられる環境が整えられる。これには、マイナンバーカードが用いられ、将来的には医療機関の情報(請求情報、カルテ情報、処方情報、発生届)、自治体の情報(予防接種情報、検診情報、介護保健被保険者情報、認定情報)、さらに介護事業者のケアプランなどの情報も統合される。現在、医療機関にオンライン資格確認のためのマイナンバーカードリーダーの導入が進められている。本人のデータ確認は、マイナポータルを通して行われ、また、本人の同意を得た上でそれらの情報をPHR (Personal Health Record)事業者が共有し、研究開発にも役立てるとされる。次に、2)であるが、現在電子カルテの普及率は2021年度のデータで、一般病院57.2%、診療所49.9%という現状がある11)。また、電子カルテの仕様も各医療機関でバラバラなことが問題になっている。そこで、国では共通のプラットフォームを作るために国際標準規格である「HT7 FHIR」を採用し、安価な電子カルテの開発することで普及させるという。3)は複雑化している診療報酬点数表や疑義解釈への迅速な対応のために、各開発企業に「共通算定モジュール」のようなものを導入し、診療報酬改定をスムーズに行うとしている。
 このようなインフラが整備されることにより、医療保険者の持つ高血圧に関する健診情報が医療機関と共有され、患者もオンライン診療を通じて受診が容易になり、デジタル治療の介入により早期の治療が可能となるであろう。
 
 
なお、本論文に関して開示すべき利益相反関連事項はない。
 
 
 
文献
1) 厚生労働省 第15回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 資料1-2 令和2年5月31日 
   https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000786235.pdf (cited 2022年10月27日)
2) 松井英男, 岡本祐一, 嗣江建栄. 日本遠隔医療学会雑誌. 8(2):230-32, 2012
3) 松井英男, 小林隆司, 嗣江建栄. 川崎高津診療所紀要. 1(1):6-13, 2020
4) https://fastdoctor.jp/ (cited 2022/10/25)
5) https://sokuyaku.jp/ (cited 2022/10/25)
6) https://e-medicaljapan.co.jp/ (cited 2022/10/25)
7) 松井英男. 川崎高津診療所紀要. 2(1):50-60, 2021
8) https://cureapp.co.jp/productsite/ht/ (cited 2022/10/25)
9) Kario K, et al. Eur Heart J. 42:4111-22, 2021 DOI: 10.1093/eurheartj/ehab559
10)厚生労働省 医療DX令和ビジョン2030 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000992373.pdf (cited 2022/11/02)
11)厚生労働省資料https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000938782.pdf  (cited 2022/11/02)
 
 
 
 
 
 
 

川崎高津診療所コラム「高血圧治療のこれから」v1.2
2022年11月9日公開
 

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