COVID-19は増えているのか?
2023年05月24日
1 はじめに
世界保健機関(WHO)は2023年5月5日、新型コロナウイルスの世界的な蔓延を受けて出していた、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を終了する事を発表しました1)。これを受けて、日本では5月8日から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、「新型インフルエンザ等感染症(2類相当)」から「5類感染症(定点観測)」に移行しました2)。これによって、発生動向を知るためには、定点観測医療機関からの一週間に一度の集計結果、種々のサーベイランス(抗体保有率調査、下水サーベイランス研究等)が必要になり、医療体制も行政が関与しない、「幅広い医療機関による自律的な通常対応」が求められています。また、基本的感染対策では、政府は一律に対応を求めることはなく、その実施は個人や事業主の判断に委ねられることになったのです。
2 COVID-19の感染状況の把握
(1)定点観測とは?
定点観測とは、あらかじめ指定された医療機関が毎週1回、診断した患者を報告するもので、季節性インフルエンザなどの流行の把握に用いられています。川崎市では、61の医療機関で毎週月曜日に届け出が行われおり、「川崎市感染症情報発信システム(KIDSS)」により、リアルタイムでそのデータが公開されています3)。このデータをもとに5月22日(月)までの川崎市全体の医療機関当りの報告数(5月23日午後2時現在)を見てみると、4月以降、数は少ないものの月曜にピークを示しながら漸増していることがわかり、22日現在では、1.79人/日でした(図1)。また、これには地域差があり、当診療所がある高津東地区では3.0人/日で川崎区の田島地区の3.5に次いで高い数値でした(図2)。ところで、定点観測では原則月曜報告ですが、どうしても報告の遅延が生じており、その他の曜日に分散していることがわかります。

図1 COVID-19の川崎市全体の医療機関あたりの報告数(文献3より引用)

図2 COVID-19の地域別の医療機関あたりの報告数(文献3より引用)
厚生労働省は、5月19日、全国5000の定点医療機関からの直近一週間(8日から14日)のCOVID-19の患者数は、1医療機関あたり2.63人であったと発表しました4)。これは、前週(1日から7日)の1.80人より増加していることになります。また、米国モデルナ社の日本法人である、モデルナ・ジャパンでは、国内約4100の医療機関による民間診療データベース(日本臨床実態調査: JAMDAS、M3社)を通じて陽性者数を把握しており、21日の全国新規感染者数を2万5745人と推計しています5)。厚生労働省の定点観測の集計では、タイムラグが生じるわけですが、モデルナ社が公表している電子カルテのデータベースをもとにした推計値は、実数が公表されていた頃と同様、リアルワールドに近い値と考えられます。
(2)新型コロナウイルスの下水疫学調査
医療機関からの報告の集計ないしは電子カルテのビッグデータだけでは、実際の感染者数を過小評価する可能性があります。そこで注目されているのが下水中のコロナウイルスmRNAの定量です。これは、コロナ禍の初期より報告されていたもので、地域の患者が感染確認する前にその動向を捉えることができます6)。
神奈川県では、神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科との共同事業として、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、「感染者情報分析EBPMプロジェクト」を実施しており、相模川流域の下水中の新型コロナウイルスの遺伝子検出による感染状況の把握や変異株の同定を行っています7)。これまでの、第6波から8波までの検討では、流域新規感染者数との相関が示されており、患者数の増加以前から下水中のmRNA濃度が上昇することがわかっています(図3)8)。これまで第8波は収束していましたが、5月の第2週に入り、相模川左岸(茅ヶ崎市、平塚市、藤沢市、海老名市、綾瀬市、座間市、相模原市、寒川町からの下水を処理する柳島水再生センター)でのウイルス量の急峻な上昇を認めています(図4)9)。

図3 相模川流域下水中のコロナウイルス濃度と流域感染者数(文献8より引用)

図4 相模川流域の下水におけるコロナウイルス濃度の推移(文献9より作成)
3 おわりに
COVID-19が5類感染症に移行したことで、社会全体がこれまでのいろいろな制限が撤廃された風潮になっています。しかし、SARS-CoV-2ウイルスがなくなったわけではなく、感染者数が増加すると死亡者は増加します。とくに日本では、オミクロン株になってからその傾向が強く、その原因究明と早急な対策が必要であり、そのためにも現状把握は必要なのです。
文献
committee-regarding-the-coronavirus-disease-(covid-19)-pandemic
2)https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html
3)https://kidss.city.kawasaki.jp/ja/realsurveillance/report?chart=1
4)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230519/k10014071991000.html
5)https://moderna-epi-report.jp/
6)Nemudryi A, et al. Cell Reports Med. 2020 DOI: 10.1016/j.xcrm.2020.100098
7)https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/covid19/simulation.html#COVID
8)https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/covid19/past_sewer/202305graph.html
9)https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/covid19/past_sewer/202305_2w.html
All above URL information was cited in May 22, 2023.
川崎高津診療所コラム「COVID-19は増えているのか?」v1.3
Published on line in May 24, 2023
Attribution 4.0 International (CC BY 4.0)
ダウンロードはこちら(563.3KB)